現代社会では何かしら「だるい」「疲れる」という悩みを慢性的に抱えている人は多いのではないだろうか。おまけに昨今の情勢では、自粛生活が続くことでさらに疲弊し、どんどん体調が落ち込んでいくという悪循環に陥っている人もいるだろう。実は、その悩みは「大腸劣化」が原因なのかもしれない。それなら、ビフィズス菌をはじめとする大腸にすむ腸内細菌が解決してくれる可能性がある。
最新の研究で明らかになってきた腸内細菌が全身の健康に与える影響や、2週間で効果が表れるという食生活のコツを取材した。
大腸と疲労には深い関係がある
大腸劣化が疲労の原因-とはどういうことだろうか。背景には脳と腸の相関関係、「脳腸相関」というメカニズムがあるそうだ。
たとえば、脳がストレスを感じると交感神経が刺激され腸の緊張も高まり、「蠕動(ぜんどう)運動」という便を排出するための腸の動きも低下する。
逆に腸の機能が低下することで便秘になりやすくなり、不快感が増してそれが疲労感にもつながっていく。さらに、便秘の状態でストレスなどによって大腸の悪玉菌が増えることになると、本来なら便として排出される有毒物質が大腸内に長く留まり、腸壁に炎症を起こして毒素が血液中に漏れだし、全身の健康リスクへとつながっていくことになるのだ。
このように、現代日本人の腸、なかでも大腸が劣化しやすい環境にあると語るのは、消化器を専門とする帝京平成大学健康メディカル学部の松井輝明教授である。高ストレス生活や食の欧米化で大腸内の腸内細菌のバランスが崩れ、悪玉菌が増えることにより、大腸ガンなどの大腸疾患リスクだけでなく、糖尿病や高血圧などの全身の健康リスクが上がっていると警告する。
さらに昨今の自粛生活によって、運動不足・不規則な生活など、生活環境が激変。先行きが見えない不安感も相まって疲れを感じる人が増えているのだ。「生活環境が変わるのはそれだけでストレスになりますし、仕事でもプライベートでもどこに行っても自粛を意識せざるを得ないので、ストレスがたまりやすい環境にあります」(松井教授)。
疲労やストレスからの回復には睡眠・運動・規則正しい生活が大切なのはもちろんだが、腸内細菌の働きに着目することでも、疲労に負けない身体をつくることが可能だと松井教授は強調する。カギになるのは、大腸に暮らす善玉菌を活性化させる食生活である。
「腸、特に大腸は単に水分を吸収するだけでなく、様々な疾患に影響していることがわかってきました」と松井教授は言う
「ビフィズス菌」と「短鎖脂肪酸」
善玉菌の活性化で特に注目したいのは、大腸の善玉菌の代表である「ビフィズス菌」とビフィズス菌などがつくりだす「短鎖脂肪酸」だ。短鎖脂肪酸が多くつくられると悪玉菌の増殖を抑制し、炎症を抑える作用が高まる。そのうえ全身のエネルギー源ともなるため、大腸では蠕動運動を活発にして快便を助け、全身の代謝が高まることでヤセ体質も手に入れられるという。
短鎖脂肪酸は、ビフィズス菌などの善玉菌から作られる
「短鎖脂肪酸が増えると大腸でエネルギーを発生して全身のエネルギー源となり結果として疲労改善につながるといえます。」(松井教授)。
ではビフィズス菌と短鎖脂肪酸をどんどん増やしたくなるが、どうしたらよいのか。
酸素を嫌うビフィズス菌は、一般の発酵食品にはふくまれていない。その中でも手軽にとれる食品はヨーグルトだが、ヨーグルトでもビフィズス菌を含まないものが多く、ビフィズス菌入りかどうかをチェックすることが大事だ。そして、ビフィズス菌が短鎖脂肪酸をもっと効率よく生むためにはエサが必要となる。
ビフィズス菌のエサとなるのは「水溶性食物繊維」や「オリゴ糖」など。具体的には、海藻・根菜、納豆・リンゴ・ミカン・ハチミツなどの食品に含まれている。
ビフィズス菌入りヨーグルトにプラスして、日々の食事に1日2~3回、1品ずつで構わないのでこれらの食品を加えていけば、腸内環境のバランスが改善し、ビフィズス菌などの善玉菌が活性化して短鎖脂肪酸をどんどん生み出してくれるようになるという。
「自分の腸内細菌との相性があるので、ビフィズス菌入りヨーグルトを試すとき、同じ製品を最低10日間は続けること。もし10日ぐらいで変化がなかったら、自分の体内にすんでいる常在菌と相性が悪かったということで、別のヨーグルトをまた同様の期間試す。便通や便のニオイが改善したと実感できたら、それは相性の良い菌だというしるしです。」(松井教授)
短鎖脂肪酸を増やすには善玉菌とそのエサが必要
実は、生まれた直後の人間の大腸には母体(産道)から受け継がれたさまざまな腸内細菌がいるが、その後は母乳に含まれるオリゴ糖をエサにビフィズス菌が大腸内でどんどん増え、感染症などの外敵から赤ちゃんを守ってくれる。その後、離乳食など母乳以外の食品を摂り始めるとビフィズス菌は減っていき、一定の年齢を超えると加齢と共に急激に減ってしまう。
ある調査によると、長寿の人や健康な人の大腸内には、ビフィズス菌が多いという結果もあり、健康と長寿に大きな役目を果たすのではないかと注目が集まっている。
ビフィズス菌は赤ちゃんの時に多くても、加齢につれて減っていく
腸内環境をチェックするにはどうしたらよいか
では、腸内環境のコンディションを調べるバロメーターは何だろうか。まず自分で分かる簡単な判断基準は、便のニオイが悪化したり、便秘気味になったりしてないかどうかだ。便のニオイが気になったり、便が毎日出ない、毎日出ても残便感が残ったりなどの自覚症状がある場合は、大腸の善玉菌が劣勢で腸内環境が悪化している兆しになりうる。「同じメニューで食事をしている家族なら、お父さんの後のトイレのニオイが気になり始めると要注意かもしれません。同じ食事なら腸内細菌のバランスも似てきます。まずは自分の便と大腸の状態を意識することが一番です」(松井教授)。また最近では健康診断のオプションなどでも、検便による腸内フローラ(腸内細菌)検査という専門的な検査も可能なので、加齢で身体の健康が気になってきたら、人間ドックなどの際に定期的に調べてみるのもよいかもしれない。
ビフィズス菌入りヨーグルト+エサとなる水溶性食物繊維を摂り始めて便通がよくなれば改善効果が出ている証拠だが、そこで安心して元の食事に戻ってしまうと腸内細菌も2週間で元にもどってしまうので、継続が肝心だ。
松井教授は「腸内環境は日々の自分の生活が作る。この自覚が大切です。腸内細菌のバランスを意識し、多様性を保つことがいいですね」と解説した。制限の多いダメダメづくしの食生活はかえってストレスの元になり、本末転倒に。好きなものも食べつつ、ビフィズス菌入りヨーグルトや水溶性食物繊維などを足して、トータルで大腸によい、ストレスのない生活習慣を続けていきたいものだ。