大手半導体メーカーのキオクシアホールディングス(HD)が2020年10月6日に予定していた東京証券取引所への上場を延期した。大口取引先の中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する米国の制裁強化を受け、業績の先行き見通しが不透明になったためで、米中貿易摩擦のあおりを受けた形だ。
上場が遅れれば、競合他社に後れをとる恐れもあるとして、年内上場に向け申請し直すとの報道があるが、そもそも想定株価が高すぎたとの指摘もある。東証で今年最大の新規上場案件だけに、動向が気になる投資家も多いようだ。
「5G」普及期に入り、見込まれる「市場の拡大」
キオクシアHDは東芝の半導体部門を分離した旧東芝メモリホールディングスが社名変更した。スマートフォンなどのデータの記憶に使うNAND型フラッシュメモリーで世界第2位のシェアを持ち、売上高の約4割がスマホ向けだ。
上場延期は9月28日に発表した。直接の要因はファーウェイ問題だが、新型コロナウイルスの感染拡大による国内外の経済情勢の不透明感もあり、投資家のキオクシアHD株への期待が高まらなかった事情もある。
キオクシアHDは8月27日に上場承認されたが、この時点の想定価格は、1株当たり3960円、時価総額は2兆円超だったが、9月17日に決めた仮条件は1株2800~3500円と1~3割引き下げ、時価総額も1兆5000億円程度に〝目減り〟していた。
とはいえ、フラッシュメモリーが、成長が期待できる分野であることは変わらない。高速通信規格「5G」の普及期に入り、市場の拡大が見込まれている。調査会社によると、スマートフォン向けフラッシュメモリーの消費量見通しは2024年まで年平均28%成長すると見込まれる。ほかにも、フラッシュメモリーを多く搭載する記憶装置のSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)も24年までデータセンターと法人向けストレージ機器用途で同20%の成長が期待できるという。
機動的な投資判断が成長を大きく左右
そこで、各メーカーは年間数千億円を設備投資に振り向け、激しい製品開発・増産競争を展開している。どれだけ資金を調達・投入できるかが勝負の分かれ目というのが、半導体の宿命だ。キオクシアHDは、売上高のほぼ3割に当たる3000億円程度を設備投資にあてる方針で、主力の四日市工場(三重県四日市市)の第7製造棟の建屋着工時期を当初計画の2021年9月から4月へ半年前倒しする方向といわれ、北上工場(岩手県北上市)の生産ライン増設も検討している。
上場で600億~750億円程度の資金調達を見込んでおり、こうした設備投資に充てる計画だった。ただ、世界首位の韓国サムスン電子は、年間1兆円を超える巨額の投資をするなど、ライバルの動きは活発。半導体では特に、機動的な投資判断が成長を大きく左右するといわれるだけに、キオクシアHDの上場の遅れは競合相手との戦いにマイナスになりかねない。
ファーウェイへの規制について、キオクシアHDやソニーは、取引再開許可を米商務省に申請したが、認められるかは不透明だ。
キオクシアHDの上場延期を受けた今後の見通しについては、強弱、見方が割れている。米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」(日本語電子版9 月 29 日)は上場延期がファーウェイ制裁のためとの説明について、「特に短期的に見ればある程度の正当性がある」としつつ、「パンデミックは実のところ、データセンターに使われる半導体の需要を押し上げた」と、キオクシアHDの製品の需要拡大を指摘。株の売り出し価格の高さが「(上場)延期の根源的な理由である公算が大きそうだ」として、時価総額見込み(ドル換算)について、上場申請当初の200億ドル、上場延期決定当時の160億ドルに対し、115億ドルが妥当とのアナリストの試算を紹介している。
一方、日刊工業新聞(10月6日)は「12月上場へ」との記事を掲載し、キオクシアHDの売り上げ構成について、「ファーウェイ向けは全体の10%未満にとどまる」と、影響は限定的だとし、米アップル(20%超)、米ウエスタンデジタルと米デル・テクノロジーズ各10%超といった大口顧客が健在なことを指摘するとともに、NANDA型フラッシュメモリーの世界需要が旺盛なことを強調している。