新型コロナウイルスの影響で外食産業に厳しい局面が続くなか、東京株式市場で吉野家ホールディングス(HD)に厳しい目が注がれ、2020年10月12日には一時、前週末終値比8.5%(175円)安の1885円まで下げた。前週末発表の20年8月中間連結決算や足元の既存店売上高からは回復の道筋が見えにくいとの見方が広がった。その後の株価も2000円が遠い展開。ウィズコロナの時代に合わせたより大胆な改革を市場が求めているようだ。
2020年3月~8月が対象となる中間決算の内容は、売上高は前年同期比23.4%減の819億円、営業損益は59億円の赤字(前年同期は29億円の黒字)、最終損益は57億円の赤字(前年同期は18億円の黒字)と赤字に転落した。中間期として過去最大の最終赤字を記録した。
大盛りメニューのヒットはあったが...
リモートワークが普及したコロナ禍下の現象として、一般的に郊外型店舗に集客力があり、都心部の客足の戻りが鈍い。吉野家HDはどちらかというと都心部の男性向けに牛丼を売る店舗が多いことも響いているようだ。実際、「吉野家」の9月の既存店売上高は中間期(前年同期比8.1%減)の業績を下回る前年同月比9.2%減で、少なくとも順調な右肩上がりの軌道を描いていない。
人件費や管理費などを中心にコスト削減を進めた結果、営業赤字は従来予想(68億円)より縮んだものの、高水準であることには変わりない。2021年2月期の業績予想はいずれも従来予想を据え置き、このうち営業損益は87億円の赤字(前期は39億円の黒字)と過去最大を見込む。この辺りのことが「コスト削減で業績改善に結びつけられるだろうか」との懸念を呼んだ可能性がある。
もちろんさまざまな手は打っている。商品面では大盛りメニューのヒットがあった。かつて牛丼並盛りが300円を切るような値下げ戦略が功を奏した時代もあったが、材料費や人件費の上昇とともに「無理筋」になるなか、中身の増量でお得感を出そうとする戦略。吉野家で4月から肉のボリュームが並盛りの3倍(値段は約2倍)という「スタミナ超特盛丼」(798円税別)を投入し、人気を集めている。
「経営体質の改善」への視線
また、「店内飲食からテイクアウトへ」の流れに合わせ、吉野家の宅配サービス対応店舗をこの中間期に645店舗(国内全店舗約1200店の半分強)にまで増やした。よりコスト軽減が期待できる宅配専門店も試験的に都内で始めており、来期には全国に拡大する方針だ。
ただ、他の牛丼チェーンと比べても高コストとされる経営体質の改善は不十分とみている投資家が少なくないことが、株価に表れているようだ。吉野家よりも売り上げの戻りが遅い傘下のうどんの「はなまる」、寿司の「京樽」の不振も頭の痛いところ。外食業界では日本マクドナルドHDや日本ケンタッキー・フライド・チキンのようにコロナ禍でも増収を果たすところもあるだけに、米国産牛肉輸入禁止など数々の試練を乗り越えてきた吉野家HDの底力が試されていると言えそうだ。