ボクシングの世界ライト級4団体王座統一戦が2020年10月17日(日本時間18日)、米ラスガスで行われ、IBF王者テオフィモ・ロペス(23)=米国=が3団体王者ワシル・ロマチェンコ(32)=ウクライナ=を3-0の判定で破り世界ライト級4団体統一に成功した。アグレッシブな戦法でロマチェンコの技術に打ち勝ったロペスは、史上5人目となる世界4団体統一王者となった。
10ポイント差が米国内で物議かもす
今年度最高といわれたビッグマッチは、23歳の若きファイターに軍配が上がった。試合はフルラウンドまでもつれ込み、3人のジャッジはそれぞれロペスを支持。判定は割れることなく、116-112(4ポイント差)、117-111(6ポイント差)、119-109(10ポイント差)の3-0だった。判定はともかく、10ポイント差の採点に関しては、両者のプロモーターであるトップランク社のボブ・アラム氏が異議を申し立てており、米国内で物議をかもしている。
ボクシング関係者による戦前の予想は、ロマチェンコ勝利に大きく傾いていた。ロマチェンコは「ハイテク」と称されるほど高いボクシング技術を持っており、米国の権威ある老舗専門誌「ザ・リング」が格付けする最新のパウンド・フォー・パウンド(PFP)では2位にランク。ちなみに1位は、世界ミドル級、スーパーミドル級王者サウル・アルバレス(メキシコ)で、井上尚弥(大橋)は3位にランクインしている。
約400戦のアマチュアキャリアを誇り、五輪連覇を成し遂げ世界屈指の防御技術を持つロマチェンコ。対するロペスは五輪出場の経験を持つがメダルを獲得しておらず、プロキャリアでは2019年12月にIBF王座を獲得したばかり。戦前、ロペスの番狂わせを予想する関係者の多くは、ロペスの右がロマチェンコの顎を捕らえてのKO勝利を予想しており、判定でロペスが勝利するという声は少なかった。
7ラウンドまで3ジャッジ全員がロペス支持
大方の予想を覆して若き王者がベルトを統一したわけだが、採点の内容は妥当なものだったのか。3人のジャッジの採点とともに試合を振り返ってみる。
立ち上がりのロマチェンコは、慎重すぎるといっていいほど慎重だった。一発で相手をKOする右を持つロペスに対してガードを高く上げ、中間距離を保った。左ジャブで圧力をかけながらガードの上からもおかまいなしにパンチを打ち込むロペスとは対照的にロマチェンコは様子見が続き手数が出ない。ビッグパンチはないものの、ロペスが主導権を握る形で中盤戦まで淡々と同じような展開が続いた。
スコアカードでは、3人のジャッジ全てが7ラウンドまで10-9でロペスを支持している。これが意味するところは、ロマチェンコは8ラウンド以降全てのラウンドを取ったとしても、ダウンを取らない限り判定では勝つ見込みがないということ。もしくはロペスを倒さない限り勝利はない。スコア的には7ラウンドが終了した時点でロマチェンコの勝利はかなり厳しい状況にあった。
ロマチェンコが反撃を開始した8ラウンドは採点が割れている。2人のジャッジが10-9でロマチェンコ。残り1人が10-9でロペスを支持。9、10ラウンドも採点が割れ、11、12ラウンドは3ジャッジが揃った。11ラウンドは10-9でロペス、最終12ラウンドは3人が10-9でロペスを支持。119-109でロペスを支持したジャッジは、11ラウンドを初めてロマチェンコのラウンドとした。
「ワシルが勝ったことは明らかだった」
119-109の採点は別として、3ジャッジの見立て通り、この日のロマチェンコは仕掛けるのが遅すぎた。海外の専門サイト「BOXING NEWS24」によると、トータルでロマチェンコが放ったパンチ数は「321」で、そのうち有効打は「141」となっている。対するロペスのパンチ数はロマチェンコのほぼ2倍となる「659」で、有効打は「183」。パンチ数、有効打においてロペスがロマチェンコを上回った。
海外の専門サイトの採点をみてみると、「Boxing Scene」が116-112でロペス。「Fight news」は115-114の僅差でロペスの勝利を支持している。米国メディアの反応は、119-109の採点に疑問が残るものの判定に関しては妥当だという見方が大半で、トップランク社のボブ・アラム氏も判定に関しては納得しているようだ。ボクシング界のレジェンド、マイク・タイソンやマニー・パッキャオらもロペスの勝利を歓迎している。
その一方で判定を不服としているのがロシアのボクシング連盟だ。専門サイト「Boxing Scene」によると、ロシアボクシング連盟のウマル・クレムレフ書記長は「私の個人的な意見だが、ジャッジがこのような採点をしたことは非常に残念なことだ。ワシルが勝ったことは明らかだった」とロマチェンコの勝利を主張している。
ロマチェンコ、ロペスともにトップランク社に所属していることから再戦への障害はそう多くはないだろう。ただ両者にとって再戦の選択がベストであるかは別問題である。ロマチェンコは適正体重といわれるスーパーフェザー、フェザー級に戻す可能性もあり、一方のロペスは23歳とまだ若く、スーパーライト級に階級を上げる可能性も。今後の両者の動向に注目が集まる。