NTTが、携帯電話事業を手がける子会社のNTTドコモを完全子会社化する。約4兆2500億円を投じて株式の公開買い付け(TOB)を実施、東証1部上場のドコモはTOB成立後に上場廃止になる。通信業界はすでに次世代通信「5G」の時代に突入し始める中、グループの稼ぎ頭であるドコモですら劣勢にあるとの危機感が背景にある。
NTTは現在、ドコモ株の66.2%を保有しており、残りをTOB公表直前の28日の終値2775円に約40%のプレミアムを上乗せした1株3900円で買い付ける。期間は2020年11月16日まで。
「再結集」への転換
日本電電公社の民営化で1985年発足したNTTは、1988年にNTTデータ、1992年にドコモを分社化、1999年には持株会社化して東西地域会社とドコモ、コムなどを傘下に収めるグループ体制が確立した。こうした過去の通信行政は、「巨人」NTTの力をいかに制御し、公正な競争条件を整えるかに眼目を置いてきた。そのためにNTTは次々分割されてきたが、今回は、初めて逆向きの「再結集」という方向の再編になる。
実は、これが可能になったのは、皮肉にもドコモの不振のためだ。2020年3月期の営業利益はKDDIとソフトバンクのライバル2社を下回った。携帯市場のシェアは一人勝ちだった2000年当時の約6割から、足元は37%まで落ちている。TOBを発表した9月29日の記者会見で、NTTの澤田純社長は「私たちは3番手」と幾度も口にし、「目的はドコモの競争力強化と成長だ。総合ICT(情報通信技術)企業へと進化をしていくことを目指す」と述べたように、ドコモの停滞をこれ以上看過できなかったということだろう。
具体的に、ドコモ取り込みでNTTは何を狙っているのか。そのキーワードは「海外」と「6G」だ。
NTTは30年前には時価総額で世界一となるなど世界の通信産業のリーダーの一角を占め、ドコモは携帯でweb閲覧・メール送受信ができる世界初のサービス「iモード」を開発するなど、技術でも高く評価された。しかし、今や時代はスマホ全盛期となり、日本の携帯が「ガラパゴス化」する一方、グーグル、アップルなどのGAFAが世界市場を席巻。その陰でNTTの海外事業の売上高比率は2割程度にとどまっている。
そこでGAFAなどに対抗するため、グループ内に分散した研究部門を統合し、意思決定を速めて開発力を高め、世界市場に打って出ようというのが、今回のTOBの大きな狙いだ。
実際に戦ううえでポイントになるのが「6G」だ。通信の世界は「5G」時代に突入したところで、大量の情報を、格段に速くやり取りできるようになった。遠隔医療などへの活用が期待されている。日本は5Gの普及が遅れ気味で、まずその挽回が課題。NTTは3月にトヨタ自動車とスマートシティー分野で業務資本提携を結び、6月にはNECに640億円出資することも決めるなど、手を打っており、IT関連サービスやコンテンツ事業などを強化する。
ライバルたちは危惧
さらに、NTTが重視するのが、その次の世代の「6G」。技術開発に力を入れており、特に光技術を使った通信技術の開発・普及を先導したい考えで、ドコモを取り込むことで、グループ一体で優位に立ちたい考えだ。
今回のTOBは菅義偉政権誕生が追い風になったとの見方が強い。企業の国際競争力向上を目指す政権としては、日本のICT復権のリーダーとして、人材豊富なNTTへの期待は大きい。なにより、ドコモの経営体力が強まれば、菅首相の金看板である携帯料金値下げにつながるとの思惑もある。澤田社長が早速、料金値下げの方針を示している。
だからというわけでもないだろうが、武田良太総務相はTOB発表当日の会見で「固定電話が圧倒的に多かった時代と、ここまで携帯が普及した時代では環境が違う」と、再編を是認。公正取引委員会の菅久修一事務総長も翌30日の定例記者会見で、「(独禁法面で)この株式取得が問題になることは考えにくい」との見解を示した。
ただ、ライバル各社は警戒感を強めている。29日、KDDI(au)とソフトバンクは、それぞれ「料金値下げの問題とNTTの経営形態のあり方は別。公正競争から議論されるべきだ」、「NTTグループ各社のあり方は一定のルールが課せられている。公正競争確保の観点から検証されるべきもの」などとコメント。政府が約3割の株式を所有するNTTが強大な信用力を背景に携帯市場に臨むことをけん制した。