「結婚してもいい」そして「友和さん」コールも
当時の百恵ファンの反応を調べてみた。雑誌「週刊明星」1980年10月26日号で百恵さんの最後のコンサートツアーに押しかけるファンが取材されている。そこにはアイドルファンに典型的な男性陣だけでなく、若い女子学生や高齢女性の様子も報じられていた。大阪公演に集まった「親衛隊」の女性ファンは「百恵ちゃんはわてらの命や。決めたことダンコやり通す生き方、すてきやなァ!」と語り、福岡公演に山口県から駆け付けた女子高生は「百恵ちゃん、結婚してもいいから、引退なんていや。うちのネコに" モモエ" " トモカズ"って名をつけてかわいがってたのに!」と残念がる様子が書かれていた。
しかも、武道館公演や全国ツアー会場のレポートによれば「百恵ちゃーん」だけでなく「友和さーん」コールも客席からなされていた。友和さんへの嫉妬のような感情は微塵もなく、2人を一心同体のものとして門出を応援する空気が醸成されていたようだ。
百恵さんの自著「蒼い時」(集英社)でも婚約と引退発表後のファンの反応に触れた記述がある。
「『私たちは、ふたりの結婚を心待ちにしていました。でも引退は別。あんまりです。許せません』発表当時は、ほとんどこういった内容の手紙だったが、近づくにつれ、それは変化してきた。『引退はショックです。でも百恵さんの人生は百恵さんのもの。幸福になって下さい。それが私たちのただひとつの願いです』
人の人生は誰のものでもなく、その人自身のものだから、私も自分に悔いない生き方をしていきたい。もちろんそう思ってはいたが、ファンの言葉はやはり胸をつく」
いずれも、友和さんとの交際・結婚よりも引退の方がショックという感想が興味深い。40年後のファンと比べても応援するスターの異性関係への本音は変っていないようだ。
1970年代でもこのような空気はできていたが、芸能文化評論家の肥留間正明氏は、当時と現代を比較して、アイドルの恋愛は自由になっていると指摘した。
「当時の芸能界はまだまだ儒教的というか、異性関係も徹底的にガードされて公にできない空気がありました。だから交際関係の証拠を撮れればそれだけで大スクープです。今はもっとおおっぴらに取材したり、当人に聞いたりもできますよね」
そして風潮の変えたアイドルの1人が松田聖子さんだったと分析する。
「彼女の男性遍歴は多彩でしたが、それでもずっと芸能活動を続けてきました。それがタブーを打破し、21世紀以降はアイドルの恋愛もすっかりオープンになったかなと思います。百恵さんの頃は、まだまだアイドルが可愛いお人形でよかった時代ですね」
百恵さんと友和さんの仲はマスコミにマークされ続けていたが、先んじて恋人宣言を行った百恵さんの潔さも後世に先んじていたかもしれない。また肥留間氏は百恵さんのスター性を、「はじめは『不良っぽい』というようなイメージで同性から嫌われがちでした。しかし徐々に同性から支持されるようになり、最後には友和さんとの結婚もおめでとうという雰囲気で祝われていました」と回想する。「週刊明星」で報じられた女性ファン層の存在もこれを裏付けるかのようだ。