鉄鋼メーカーとして世界屈指である日本製鉄の株価が、足元で堅調に推移している。2020年10月8日には一時4.1%、7日には一時2.2%、それぞれ前日終値より上昇した。その後も多少の上下を続けつつ、16日の終値が1066円と、コロナ禍の中で大幅に下落した4月の年初来安値(798.1円)より30%強高い水準にある。
自動車向けの需要が回復していることで一時休止中の高炉を再稼働することが好感されている。ウィズコロナの時代に自動車が必要とされ、その「前工程」にあたる鉄鋼メーカーにも光が当たっている格好だ。
高炉再稼働が上昇材料に
7日の株価上昇の材料は、日本製鉄が6日に発表した高炉の再稼働だ。新柄コロナウイルスの影響で鋼材需要が低迷したため、一時休止中の千葉県君津市の高炉1基を、11月下旬をメドに再稼働させる。7月から改修のため停止している室蘭製鉄所(北海道室蘭市)の高炉も、11月下旬に工事を終えて再稼働させるとした。取引開始直後は値を下げる場面もあったが、投資家の間に業績改善期待が広がり、上昇に転じた。10月3日付の日本経済新聞が同様の内容を報じたことで週明け5日の東京株式市場で日本製鉄株が一時前週末終値比6.0%(59.2円)高の1042.5円まで上昇していたが、当事者からの発表を確認できたことでさらに値を上げた。
国内ではJFEスチールも9月、西日本製鉄所の福山地区(広島県福山市)の高炉1基を再稼働させている。自動車向けの需要が回復しているとして10月下旬の予定を前倒ししたものだ。
さらに、8日の株価上昇の材料は経済産業省が7日に発表した国内粗鋼生産量の見通し。2020年10~12月期は前年同期比10.7%減の2111万トンと、前年割れながら3四半期ぶりに2000万トンの大台を超えると見込んだ。鋼材需要量は前年同期比10.1%減の1945万トンだが、前期(7~9月期)実績見込み比は4.1%増に回復。「自動車を中心とした需要先の生産が持ち直すことで増加する見通し」(経産省)という。政府の見通しが明確に前期比増となったことで先行きが明るくなり、株価も大いに反応した。
さらに一段の上昇は...?
もっとも、日本製鉄は、海軍工廠跡地(広島県呉市)に建設された呉製鉄所(高炉2基)を2023年9月末をメドに閉鎖するほか、「官営」以来の八幡製鉄所(北九州市)の高炉1基、旧住友金属工業の主力だった和歌山製鉄所(和歌山市)の高炉1基を休止する大がかりな構造改革(生産能力削減)を進行中だ。中国企業の大幅増産などにより世界的に生産能力が過剰になっていることに対応する。高炉4基の休止(15→11基体制へ)を含むリストラで1000億円の収益改善効果を見込んでいる。
そうした最中に今年春先、新型コロナによって2008年のリーマン・ショック級の需要蒸発が起きたため一時休止していた高炉について、足元の需要動向で再稼働する、というのが現在の状況だ。とはいえ、自動車向け需要の回復と言ってもコロナ禍前の巡航速度にやや近づいたというものであって短期的な好材料に過ぎず、1年前の約3分の2に留まる株価が、さらに一段の上昇があるかどうかは見方が分かれそうだ。