外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(24)元NHK解説主幹の柳澤秀夫さんと考えるテレビ報道

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記者の仕事はエッセンシャル・ワーク

   コロナ禍は、当たり前の日常の行為に制約を課すことで、「当たり前」だった行為の意味や真価を気づかせてくれる。

   その一例として柳澤さんが挙げるのが、「取材はエッセンシャル・ワーク」ということだ。

「火事が起きれば、消防士は火事の現場に向かい、消火活動をする。泥棒が逃げれば、警察官は容疑者を追いかける。事件や事故が起きれば、記者は現場に向かう。消防士が危ないからという理由で火災現場に行かず、警察官が、『自分は妻子がいるからご勘弁を』というなら、看板を下ろすしかない。記者も、いろいろな理由をつけて現場に行かないなら、報道の看板を下ろすしかない」

   今回のコロナ禍では、今年5月、当時の東京高検の黒川弘務・前検事長が、緊急事態宣言下で賭けマージャンをしていたことが週刊文春に書かれ、辞任に追い込まれた。安倍政権が、将来の検事総長にするため、国会に検察庁法改正案を出しているさなかの辞任だった。

   コロナ禍で緊急事態宣言が出され、政府が「不要不急」や「3密」を避けるよう呼び掛けている最中のことだ。しかも、相手は朝日新聞社員1人と、産経新聞の社会部次長、記者の3人だった。

   産経新聞は、外出自粛を呼びかけていた新聞社の記者がこうした行為をとったことを「不適切」と判断し、「新聞記者の取材」に対する読者の信頼感を損ねることを認めた。さらに、取材対象への「肉薄」は、「社会的、法的に許容されない方法では認められず、その行動自体が取材、報道の正当性や信頼性を損ねる」として、反省点を明確にした。

   残念ながら朝日新聞は、この産経新聞の報告を要約する形で、第2社会面で事実経過を報じただけだった。 もちろん、取材源への「肉薄」が「癒着」になってはならないし、「社会的、法的に許容される」かどうかがで一線を画すべきだろうと思う。

   だが私は、この問題で、政府が緊急事態宣言を出し、メディアも「3密」を避けるよう呼びかけている時期に取材源と会ったことが、「不適切」とは思えない。こうした非常事態であればなおさら、その動きについて政権に密着し、ウオッチすることが求められると思うからだ。つまり、その意味で、記者は公共交通機関や薬局、食料品店などに携わる人々と同じく、非常事態にあっても生活のインフラを守るべく、現場に赴かねばならない「エッセンシャル・ワーカー」なのだと思う。

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