韓国の国民が日本に対して抱く感情が1年で大きく悪化したことが、2020年10月15日に発表された「第8回日韓共同世論調査」の結果で明らかになった。ここ4年ほどは、日本を訪れる韓国人旅行者が増えたこともあって、対日感情は改善が続いてきた。だが、半導体の材料など戦略物資の輸出管理を日本側が強化したことや、それにともなう安倍晋三首相(当時)の発言に韓国側が反発。「良くない印象を持っている/どちらかといえば良くない印象を持っている」と答えた人の割合が、19年比で20ポイント以上増加した。
一方で、日本側で韓国側に良くない印象を持っている人の割合は減少し、良い印象を持つ人は増えている。だが、事態は好転しているわけではなく、2015年の慰安婦合意や元徴用工をめぐる判決など問題は山積する課題の進展が見られないために「無関心」の域に達しているとの見方も出ている。
日本に対して「良くない/どちらかといえば良くない印象」49.9%→71.6%
調査は日本のNPO法人「言論NPO」と韓国のシンクタンク「東アジア研究院(EAI)」が行い、ソウルで記者会見して発表した。
日韓で回答に大きな差が出たのが、「あなたは、相手国に対してどのような印象を持っていますか」という設問だ。韓国側の回答では、「良くない印象を持っている/どちらかといえば良くない印象を持っている」という回答が19年は49.9%だったのに対して、20年は71.6%に上昇。「良い印象を持っている/どちらかといえば良い印象を持っている」という回答は、19年の31.3%から12.3%に大幅に下落した。
その理由にも変化があった。日本に良くない印象を持つ理由を複数回答で聞いた項目では、
「韓国を侵略した歴史について正しく反省していないから」(61.3%)
「独島をめぐる領土対立があるから」(45.0%)
などが上位だったが、19年と比べると10ポイント以上減少した。一方で、
「日本の政治指導者の言動に好感を持っていないから」(24.0%)
という選択肢を選んだ人は19年よりも6.1ポイント増えた。さらに、20年の調査では
「日本が輸出規制措置を取っているから」(8.8%)
「日本人が嫌韓感情を抱いているから」(7.5%)
といった、新たに設けられた選択肢を選ぶ人もいた。
国家のアイデンティティーにコメントされ「大きな抵抗感」
この背景について、EAIの孫洌(ソン・ヨル)院長は、
「今まで日本の指導者が、公式的、公開的に韓国のアイデンティティーについて指摘したことはなかった。でも、『国際法に違反することよりも、法治、法の支配が通用しない国だ、だから韓国が信頼できない』という、韓国の国家に対するアイデンティティーに対するコメント、これはとても大きな抵抗感を与えることになってしまった」
などと指摘。具体的にどの発言を指しているかは明らかではないが、19年7月の参院選に向けた討論会で、安倍氏が
「相手が約束を守らない中では、今までの優遇措置はとれない」(7月3日)
「国と国との約束が守れない中で、こうした貿易管理において、ちゃんと守れないだろうと思うのは当然」(7月7日)
などと発言したことを念頭に置いているとみられる。
言論NPOの工藤泰志代表も、
「民間を含めた多くの国民・市民の交流が全く不足している状況の中で、政府間のこうした不信の行動が、こうした状況を招いてしまっている。この状況を放っておくことは、日韓関係におけるさらなる感情の悪化につながる」
などと話し、新型コロナウイルスの影響で日韓の往来が途絶えていることも影響しているとみている。
「文在寅政権がある状況においては、もうやむを得ない、ある程度解決が難しいんじゃないか」
一方で、日本側の韓国に対する感情は大きくは変化していない。「良くない印象を持っている/どちらかといえば良くない印象を持っている」という回答は、19年は49.9%だったが、20年は46.3%に下落。「良い印象を持っている/どちらかといえば良い印象を持っている」という回答は、19年の20.0%から25.9%に増加した。
言論NPOの工藤氏は、15年末の慰安婦合意が事実上反故にされた問題や、元徴用工問題で日韓関係の膠着状態が続いていることを背景に、「無関心」や諦めに近い感情が生まれている可能性を指摘した。
「日本の国民は、こうした動きの中で、日韓関係というのは、文在寅(ムン・ジェイン)政権がある状況においては、もうやむを得ない、ある程度解決が難しいんじゃないかと思っている人たちが多い。ある意味で無関心というか、その状況の大きな変化に、日本の世論が反応しない行動が出てきている」
世論調査では、「日本と韓国の関係は、現在の自国にとって重要だと思いますか」という設問もある。韓国側で「重要である/どちらかといえば重要である」と答えた人は82.0%いるのに対し、日本側は48.1%にとどまった。日韓関係の重要度への認識の違いが、好感度の変化にも影響しているとみている。
調査は日本では9月12日から10月4日まで訪問留置回収法、韓国では9月11日から9月25日まで調査員による対面式聴取法で行われた。有効回答数はそれぞれ1000、1006だった。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)