サッカー日本代表は2020年10月14日未明(日本時間)、親善試合コートジボワール戦に1-0で勝利し、オランダ遠征2試合を終えた。初めて全員欧州組で臨んだ招集メンバーには、不動のレギュラーであるDF長友佑都(34=マルセイユ/フランス)も入っていたが、コンディション不良で参加辞退。図らずも、左サイドバックの「後継者」問題に直面していた。
コートジボワール戦で左SBの先発に入ったのはMF中山雄太(23=ズヴォレ/オランダ)、9日のカメルーン戦(0-0)はDF安西幸輝(25=ポルティモネンセ/ポルトガル)。ほぼフルメンバーの中で、2人のプレーは専門家の目にどう映ったか。
長友不在で「チームのレベルが落ちた印象はない」
長友が初めて代表に招集されたのは第2次岡田ジャパンの08年。それから10、14、18年の3大会連続でワールドカップ(W杯)に出場したことを考えただけでも、いかに長く代表で不可欠な選手になっているかが分かる。長友自身、22年W杯も見据えており、今季は名門マルセイユに加入、存在感は衰えない。だが、こと日本代表においては、チーム内競争や年齢的なことを含め「ポスト長友」発掘がかねて課題としてある。
海外組を呼んだ代表戦として約1年ぶりとなったオランダ遠征。サッカージャーナリストの石井紘人氏はJ-CASTニュースの14日の取材に、アフリカの強豪相手に長友がいなかったとはいえ「結果を左右するほどではなかった」としてこう話す。
「日本代表はまだコンビネーションが成熟しているチームではないので、長友選手がいなかったことでそこまでチームのレベルが落ちた印象はありません。もちろんいた方がいいのは間違いないですが、長友選手が全盛期よりはパフォーマンスが落ち始めているのは否めません。たとえば仮にDF吉田麻也選手(32=サンプドリア/イタリア)がいなかったら、その方がこのチームにはしんどかったでしょう」
そもそも森保一監督は、代表の左SBに必ずしも本職の選手を使っていない。長友不在時に出番の多いDF佐々木翔(31=サンフレッチェ広島)は、広島では3センターバックの左をつとめているが、代表では4バックの左SBで起用される。
「森保監督はあまり左SBを攻撃の起点として重視していないと思います。どちらかというと左SBには、縦への推進力より守備力を要求しているイメージです。たとえばザッッケローニ監督時代は左サイドが強力で、長友、香川(真司、31)、本田(圭佑、34)の3選手がコンビネーションで崩す場面が多く見られました。一方、森保監督の代表チームは、左サイドからそこまでの連携は見られません」
「今回は評価が難しい」
今回のオランダ遠征も、コートジボワール戦に左SBで先発した中山の本職はボランチ。現にカメルーン戦ではボランチで先発しており、左SBには本職の安西が入った。いずれもスタートの布陣は4-2-3-1。石井氏はまず両選手の守備面について「カメルーン戦の安西選手は、守備時に左サイド(カメルーンの右サイド)から押し込まれるシーンが何度かあった。一方、コートジボワール戦の中山選手の守備は良くやっていた」と話す。
「たとえばポジショニングですね。安西選手は攻め上がりで穴をあけがちで、そこを狙われてしまった。対して中山選手は前に出すぎず、守備のバランスが崩れることはあまりなかった。ペペ(25=アーセナル/イングランド)という世界レベルの選手とマッチアップしましたが、決定的な仕事はさせませんでした。中山選手はU-23代表(東京五輪代表)で主将を任せているし、もともとDFだったので左SBに抜擢したのだと思います。CBからボランチまでできる守備のユーティリティプレーヤー。佐々木翔選手を左SBで起用するのと同じ感覚でしょう。コートジボワール戦を見ると、中山選手をまた今後も左SBで使うかもしれません」
攻撃面では2人をこう評価する。
「安西選手はもともと攻撃的なタイプですが、カメルーン戦で持ち味が出せたかというと微妙です。中山選手は左サイドに入ったMF久保建英選手(19=ビジャレアル/スペイン)と良い距離感を保ち、久保選手の攻撃をスムーズにさせていたし、良いオーバーラップ、インナーラップもありました」
石井氏は「この2人でどちらが良かったかというと中山に軍配が上がると思います。安西選手はそれこそ左SBの後継者として期待されているし、本人にとっては悔しいオランダ遠征だったでしょう」というが、「今回は評価が難しい」とも話す。
「森保監督はそもそも攻撃の連携がタレント任せというか、ビルドアップから展開する形がまだできていません。タレントが噛み合うと良い試合をしますが、それができないと途端に何も生み出せなくなります。一方、守備組織は洗練されてきています。それだけに左SBも、攻撃より守備で粗があると目立ちます。攻撃ができるSBより、守備ができないSBのほうが、今の森保監督のサッカーでは目立ちやすい。
その点、安西選手の持ち味は攻撃力。カメルーン戦前半は日本代表全体として攻撃の形を作れなかったので、SB個人で打開するのは難しく、持ち味を発揮しづらかったでしょう。かつ、カメルーン戦は、新型コロナウイルス禍のため欧州組だけで編成した急造チームの1戦目。結果を出すのは難しい状況であり、この試合で安西選手がダメだったとは言えません」
長友と比べてどう映る?
また、2021年に延期されているW杯アジア2次予選を見据えると、「今回だけでは、なお何とも言えない」という。
「アジア予選は今回と違って相手が格下。引いて守るチームも多くなるので、SBが攻撃参加しないと崩せない場面が出てくるでしょう。そうすると今回とはサッカーが変わってくるので、アジア予選が再開してから左SBの評価も変わるかもしれません。守備面では合格点を出せる選手はいるけど、攻撃で仕事ができる選手はいるのかと。そこが測りかねるので、このオランダ遠征は試合中に3-6-1を試し、オプションとして持っておこうとしているとも思います」
では、この2試合で左SBに入った2人は、長友に比べてどう映ったか。石井氏はこう話していた。
「安西選手は自分の良さを出せなかったので何とも言えません。中山選手は、守備については長友選手にそこまで引けを取らない対応を見せました。ただ、今後も久保選手を左サイドで起用するなら、長友選手と久保選手がどういう風に連携するかは見てみたいところ。『長友選手を見てみたい』と思ってしまうのは、中山選手が長友選手を押しのけるほど良かったわけでは決してないということかと思います」
(J-CASTニュース編集部 青木正典)