東京・池袋の路上で自動車が暴走し、松永真菜さん(当時31)と長女・莉子ちゃん(当時3)をはねて死亡させるなどした事件で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)罪に問われた旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(89)が初公判で「無罪」を主張したことをめぐり、2020年10月11日のワイドショー番組では「人が亡くなられて大勢がケガしているのに無罪主張するんですか?」などと、その理屈を問う声があがった。
「ダウンタウン」の松本人志さんは「ワイドナショー」(フジテレビ系)で、「弁護団側も、『いやいや流石にそれ(無罪主張)はちょっと...』ってならないんですか?」と首を傾げた。番組で専門家は「立証の難しさは説明していると思う」といった見解を述べている。
「まったく無罪というのはどういうことですか?」
事故は19年4月19日に発生。真菜さんと莉子ちゃんの2人が死亡し、通行人と同乗の妻ら9人が重軽傷を負った。
東京地方裁判所で初公判が開かれたのは、約1年半後の20年10月8日。車を運転していた飯塚被告は、被害者参加制度を使って裁判に参加していた遺族の松永拓也さんらに謝罪したものの、事故については「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶している。車に何らかの異常が生じ、暴走した」として無罪を主張した。一方で検察側は、車のアクセルやブレーキに異常はなく、ブレーキが踏まれた記録はなかったと主張している。
11日の「ワイドナショー」では、タレントで俳優の石原良純さんが「無罪主張というのは、まったく無罪というのはどういうことですか?」と疑問を述べた。出演していた犬塚浩弁護士は「この人(飯塚被告)の認識では、頭の中ではブレーキを踏んでいたのだと思う。問題は、本人がブレーキと思って踏んでいたのがアクセルだったのかブレーキだったのかということ」との見解を述べたが、良純さんはなおも「でも結果として人が亡くなられて、大勢の人がケガしているのに、無罪主張するんですか? そこが僕は分からない」と怪訝そうにこぼした。
フリーアナウンサーの神田愛花さんも「立証できなければ本当に無罪になるんですか?」と無罪主張について質問。犬塚弁護士は「自動車会社からはブレーキを踏んだ跡はないという証拠が出ている。(ブレーキ痕も)見当たらないということなので、弁護側が、万が一だがブレーキを踏んだ時に加速する可能性があると立証しないといけないので、それは非常に難しい」と指摘した。
「あまりにも自分の記憶に自信を持っているのはとても違和感が残る」
松本人志さんは番組で「ぼんやり痛ましい事件だな、くらいに思っていた人たちも、今回の本人の無罪主張で、国民の怒りが完全に1つになっちゃった感じがしますね」との印象を述べていた。また、「これ(無罪主張)は裁判でアドリブ的に本人が言ったんですか? 弁護団で相談した上で無罪主張することになったんですか?」と無罪を主張した経緯についての疑問を口にした。
犬塚弁護士が「きちんと相談はしていると思う」と述べると、松本さんは「えええ...」と驚き、「弁護団側も、『いやいや流石にそれはちょっと...』ってならないんですか?」となおも聞いた。犬塚弁護士は「立証の難しさは説明していると思います。それまで普通に運転して現場に来たわけですから、そこで突然ブレーキを踏んだら加速したと証明することの難しさは説明していると思います」と立証の難しさを再度指摘。お笑いタレントの東野幸治さんが「被告の意思をできるだけ尊重するのが弁護団ということ?」と確認すると、犬塚弁護士は「そう言うならそれで立証するしかないというところ」と述べた。
飯塚被告の無罪主張については11日の「サンデー・ジャポン」(TBS系)でも取り上げられた。政治評論家の杉村太蔵さんは、「遺族のことを考えると本当にいたたまれないし言葉がない」と述べたうえで、「一方で少し冷静に考えないといけないのは、私たち民主主義の社会に生きていますが、裁判において被告が自分の正当性を主張するのは、基本的人権の中で最も尊重されるべき、一丁目一番地」と指摘。また「推定無罪という大原則は、メディアにおいては押さえておかないといけないポイントだと思います」とも述べていた。
「爆笑問題」の太田光さんも「法律は血が通ってちゃダメなんですよね。ものすごく冷静なものでないと。感情的に許せなくても、証拠がなければ、被告が主張していることが嘘だと言えない」と話す。ただ、「一方で、僕も若い時に事故したことあるけど、事故の前後の記憶ってちょっと飛ぶんですよ。それを考えると、彼(飯塚被告)があまりにも自分の記憶に自信を持っているのはとても違和感が残る」との見解を述べていた。