日本の株式取引の8割超を担う東京証券取引所にとって、2020年10月1日は歴史に汚点を残す日となった。証券マンが手振りで株を売買する「場立ち」が廃止され、コンピューターによる取引に移行したのが1999年。それ以降で初めて営業日に取引が終日停止したのだ。装置が故障し、さらに予備に切り替わらなかったことが原因とされるが、「東証一極集中」の弊害が浮かび上がった。
この日、東証がシステム障害を検知したのは午前7時4分。8時1分には証券各社にシステム障害が起きたことを知らせ、対応を協議したが取引を開始できないと判断し、8時39分に全銘柄の売買を停止すると発表。普段は取引が開始する9時になっても、東証内の大型モニターには株価は表示されなかった。取引停止が終日に及ぶと発表したのは11時45分。同じ頃に記者会見をしていた加藤勝信官房長官は「マーケットの重要なインフラである取引所において取引が行えなくなることは大変遺憾だ」と述べた。
「多大な迷惑を関係者に及ぼした」と謝罪
東証は16時30分になってシステム障害に関して初めて記者会見を開き、宮原幸一郎社長が「常日頃からネバーストップを合い言葉に市場の安定的な運営を心がけてきたが、このような事象を発生させてしまい、多大な迷惑を関係者に及ぼした」と謝罪した。
後日も含めた東証の説明によると、大きく「注文売買系」と「運用系」に分かれる東証のシステムのうち「運用系」のネットワークにおいて、2台ある「共有ディスク装置」と呼ばれる機器の1号機が故障。バックアップのために同様の情報処理をしている2号機に自動で切り替わるはずが、開発時の設定に問題があったためできなかった。この影響で、相場情報を証券会社などに配信するためのサーバーと、取引所側で売買を監視しているサーバーに異常が発生したため、取引停止に至った。
共有ディスク装置は2019年11月にシステムを刷新した際に導入したばかり。システムを再起動すれば故障は解消する可能性もあったが、東証の事業継続計画(BCP)には再起動した後の手順が記されておらず、既に受けていた売買注文を巡って東証と証券会社の間で意見が一致しなかったという。
1位の米国、2位の中国との違い
人工知能(AI)が株式の売買注文を出すようになり、取引所は大量の注文を高速でさばく必要に迫られている。そのためシステムは高度化していくが、「機械はいつか故障する」という前提で対応を考える必要がある。経済規模で世界第1位の米国も、第2位の中国も、株式取引を複数の市場に分散させ、トラブルが起きても市場を互いにバックアップさせているが、第3位の日本は東証に事実上集中させてきた。東証は競合していた旧大阪証券取引所と2013年に経営統合して、大証で扱っていた現物株取引を吸収した。札幌、名古屋、福岡の各証券取引所も現物を扱っているが、こちらも東証のシステムを利用しており、今回は同様に停止した。
何事も「東京一極集中」によって効率を高め、国際競争力を強化していくことを国是としてきた日本。その考え方はコロナ禍によって大きく揺らぎ、今回の東証のシステム障害でも改めて再考を促された。取引所は国の「重要インフラ」の一つであり、株式の売買によって経済の「血液」を循環させる機能を持ち、資本主義の根幹を支えている。巨大地震や火山噴火といった災害も想定される日本だけに、一つの都市に経済の中枢機能を集中させることの是非が改めて問われている。