導入は簡単には進まず、菅首相が実現するのは難しい
――ところで、竹中さんは、政府の諮問会議議員などに名を連ねておられ、菅首相のブレーンのように一部で言われています。これは事実なのでしょうか? 9月18日に菅首相に会ったときは、ベーシックインカムなどのアドバイスをしたのですか?
竹中:菅総理は、特定のブレーンを持たない方だと思いますよ。官房長官時代から、朝食の時間などで、ものすごく多くの人たちと会って、いろんな話を聞いて、ストンと腹に落ちたことをやっていくんですよ。私も、国家戦略特区でスーパーシティ構想に関わったりしましたが、ストンと腹に落ちたことを物凄い政治腕力でやっていくタイプだと思います。菅総理とお目にかかったときは、ベーシックインカムの話はまったくしていません。早い時期に小さくても成果を上げる「アーリースモールサクセス」を達成すれば、政権への期待が広がって支持も長続きしていくと話しました。小泉内閣のときは、役人の言うことを聞くそれまでの総理とは違い、ハンセン病の判決があって、控訴せずに政府の敗訴を認めました。菅さんの場合は、自らお決めになることですけど、ひょっとしたら携帯電話料金の値下げかもしれませんね。
――竹中さんが小泉純一郎政権の総務相のときに菅さんが副大臣でしたが、菅さんは竹中さんが起用されたのですか? 菅さんが首相になって、竹中さんに大臣になるよう声がかかったとも一部で報じられましたが、本当ですか?
竹中:私が菅さんを引っ張ってきたということは、まったくないですね。私は、勉強会を通じて小泉さんから手伝ってくれと言われ、民間からたまたま大臣になりました。菅さんは、政治家としては大先輩で、小泉さんから副大臣に選ばれたんです。私は、郵政民営化や通信と放送の融合に専念し、菅さんは、人事を含めて幅広い仕事をやっていただき、仕事を分担していました。菅さんが私を大臣にしようという話も、まったくないです。今は、民間から大臣はできないと思いますよ。ソーシャルメディアによる批判がすごいから、公人にものすごい圧力がかかります。メディアはないことないことを書きますから、民間の人は、そんなリスクを負うインセンティブがないんですよ。今回だって、7万円で生活できるなんて言ってないですからね。そういうふうに揶揄されるので、ワイドショーとネットで繰り返されると刷り込みや印象操作になって、毎日聞いているとみんな本当だと思っちゃいますよね。
――日本では、ベーシックインカムの導入は今後どうなりそうですか?菅政権での導入はありそうですか?
竹中:導入は、簡単には進まないと思います。ただ、これからはすごくいろんなことが動く時代になってきて、「究極のセーフティネット」が要るようになってきますから、その1つとして、各国がベーシックインカムを5年後、10年後には真剣に議論していると思いますね。そんな簡単には、菅さんのときにはできないでしょう。デジタル化とか携帯とか、まずコロナを押さえるとか、政策っていうのは優先順位を付けてやっていかないとできませんから、それがすごく大事だと思います。小泉内閣のときは、不良債権処理をまずやって経済を安定化させたから、郵政民営化ができたわけですよね。10月6日に経済財政諮問会議を初めて開きましたが、そこでマクロ経済を運営するのが大変重要で、第2四半期はGDPがマイナス27.8%だったわけで、次の第3四半期のGDPが11月16日に出ますから、それを見て追加の経済対策が必要かどうか判断をしなければいけない。他にも委員会などがありますが、司令塔となる諮問会議を最初に開いたというのは、すごく意味があることじゃないですか。