トランスジェンダー役を映画「ミッドナイトスワン」で主演した俳優・草なぎ剛さん(46)が2020年10月9日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で、同作の内田英治監督とともに記者会見し、役作りについて語った。草なぎさんは最初に脚本を読んだ段階で「すごく泣いてしまった」といい、その涙が演技につながっているという。
海外の報道メディアが数多く集まる特派員協会での会見に「いつもの会見とは少し雰囲気が違うんですが」と少し戸惑った様子の草なぎさん。だがそれだけに「この作品が、少しずつですが本当にいろんな方に注目されているんだなという実感があります。大きく遠くに羽ばたいていっているのかなと感じます」と手応えも語った。
「流したその涙のエネルギーを役にのせることが、僕の一番の役作り」
同作は内田監督のオリジナル脚本で9月25日公開。草なぎさんは出演の経緯に絡め、脚本を受け取った時のことをこう振り返っている。
「トランスジェンダーの役は難しいと思いましたが、それ以上に脚本から、感じたことのないような温かい気持ちが込められていると実感できたので、この素晴らしい作品に参加したいという気持ちが勝ってしまって、すぐに撮影に入りたい、触れてみたいという気持ちになりました」
役作りにあたっては、「トランスジェンダーであることをあまり意識しなかった」。大事にしたのは、純粋に湧き出た「涙」だったという。
「脚本が持っているエネルギーみたいなものを役にのせようと。僕はこの脚本を初めて読んだ時に、すごく泣いてしまいました。その涙は何なのか分からなかったのですが、素敵な涙だと自分自身で感じました。流したその涙のエネルギーを役にのせることが、僕の一番の役作りだと思いました。だからそれを意識して演じました」
「LGBT当事者の友人はいるか」との質問には、「LGBTの友達はいませんが、これまでの芸能活動で一緒に仕事させてもらった方は何人かいました。皆さんとても優しく、僕を助けてくれた方々でした」と草なぎさん。本作出演にあたり、トランスジェンダーを知る努力は当然惜しまなかった。
制作にあたって20人以上のトランスジェンダー女性に取材をしてきたという同作。草なぎさんは撮影前、内田監督からトランスジェンダーのドキュメンタリーDVDや監督自身がまとめた資料を受け取り、トランスジェンダーの当事者とミーティングする機会も設けられたという。こうした一つ一つが「自分の中で役作りになったんじゃないかと思っています」と振り返った。
「何かを育てる気持ちはジェンダーレスの世界」
演じたトランスジェンダーの凪沙(なぎさ)は、服部樹咲(みさき)さん(14)演じる一果(いちか)との出会いの中で、やがて「母親になりたい」という思いを強くする。草なぎさんは、「母の気持ち」を表現するにあたっての考え方をこう語っている。
「凪沙というキャラクターが徐々に母性に目覚めていかないといけない。そこはすごく難しかったです。でも、何かを育てる気持ちはジェンダーレスの世界というか、男性も女性も変わらないのではないかと思いました。植物を育てる、好きな工作...何かを育んでいく気持ちで演じていくうちに、『もしかしたらこれが母性なのかな』と目覚めてきた感じでした」
内田監督は同作について「確かにどうしてもトランスジェンダーの映画と括られてしまいます。ただ基本的には、血はつながっていないけど、母性と愛情の物語。トランスジェンダーというのはその背景にある物語です」と位置付ける。そのうえで「僕も草なぎさんと話す時、凪沙というキャラクターをどう作り込むか、凪沙という主人公の映画をどう展開していくか、という話をずっとしていた」と、役作りについて草なぎさんと話し合いを続けたことを明かしている。
また、映画には凪沙の同僚・アキナ役として、トランスジェンダーであることを公表している役者の真田怜臣(れお)さん(31)が出演。内田監督は「草彅さんの演技に真田さんも感化されて、どんどん演技が良くなっていった」と2人の演技を高く評価した。
草なぎさんは最後に「デリケートな問題がこの作品の中で描かれていますが、皆さんの考えるきっかけになっていただけたら良いなと思います。自分自身『良い映画だな』と思える作品に出演できたことが嬉しいので、この感動を1人でも多くの人に届けられたらなと思っています」と語っていた。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)