三井住友信託銀行とみずほ信託銀行が請け負った株主総会の事務作業で、株主から届く議決権行使書の集計の誤りが大量に発覚した。過去10~20年、期限までに郵送されていた書類の一部を無効と扱っていたもので、誤集計は2020年だけで国内上場企業の3割を超える1346社に達する。
両行は議決結果が覆るような影響はないと説明しているが、金融庁は、両信託に対して法律に基づく「報告徴求命令」を出し、詳しい経緯や原因などを報告するよう求めた。株主総会という企業統治の根幹にかかわる不祥事だけに、日本資本主義の信用は大きく傷つけられた。
「ずっと気付かずに続いてきてしまった」
なぜ、こんな非常識なことが起きたのか。この集計実務は、両行が折半出資する子会社「日本株主データサービス」に再委託していた。同社は、総会が集中する繁忙期に集計作業が滞らないよう、郵便局との間で「先付け処理」という配達方法の調整をし、行使書に限って、本来の到着日より1日早く受け取っていた。行使書は到着期限を当該企業が定めており、本来なら期限の翌日に届く行使書が、「先付け処理」により、期限内に届いていたというわけだが、これを「期限後到着」として処理、つまり行使を無効と扱っていたのだ。
しかし、民法97条は「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」と定めており、郵便物の場合、郵便受に投函されたり、本人の住所地で同居の親族などが受領したりした場合にも到達があったと解釈される。「先付け処理」であろうとなかろうと、届いていれば有効な意思表示とすべきだということだ。
三井住友信託は9月24日の会見で、現場の長年の慣習として行われてきたとして、「法務部門は知らなかった事実で、(違法性について)ずっと気付かずに続いてきてしまった」と釈明したが、批判は避けがたい。
「モノ言う株主」要求で発覚
今回、この長年の悪しき「慣行」が発覚したきっかけは、7月31日に開かれた東芝の株主総会だった。「モノ言う株主」として知られる海外ファンドの一部が、議決権の行使ができなかった疑いがあるとして、第三者委員会による調査を求めたことだ。これを受け、三井住友信託が調査して判明したのだ。このファンドは27日に行使書を発送し、期限の30日に三井住友信託に届いていたが、31日の総会では無効にされたという。
東芝の場合、議決権のうち1.3%に当たる1139枚の行使書が期限内に届いていたのに無効にされた。この総会は、海外ファンドが独自の取締役候補を立てて会社側と対立し、緊迫した展開になり、車谷暢昭(のぶあき)社長兼最高経営責任者(CEO)の取締役選任賛成は約58%と、過半数を辛うじて上回るにとどまり、話題になった。1.3%がすべて「反車谷」であっても、議決結果に変更はないが、後味の悪い結果だ。
両信託が2020年に誤集計を確認した1346社の総会について再集計した結果、東芝を含め、議決結果が覆るケースはなかったとしているが、これより前は資料が残っていないため、検証できないという。
「『凡ミス』で市場への不信がじわじわ広がるのが怖い」
こうした誤った処理がされてきた背景にあるのが、株主総会の集中だ。3月期決算企業の総会は、2020年の場合、6月26日に32.8%が集中し、その週(21~27日)では8割近くに達する。基準日(決算期末)から「3か月以内」と決められているからだが、かつては「総会屋の勢力を分散させるために集中させた」と言われた。また、長らく日本特有の株式持ち合いが続き、銀行、生命保険、企業グループの兄弟会社など安定株主を確保していて、仮に一部の議決権が集計できなくても、大勢に影響ない、という株主総会の形骸化が著しかったという事情もある。
今回の事態は、図らずも日本社会の電子化の遅れも露呈させた。経済産業省によると、米英では機関投資家の議決権の9割超が電子的に行使されるのに対し、日本は2017年時点で機関投資家でも14%、個人株主ではわずか2.5%にとどまり、8割以上が郵送による紙での行使だという。
東京証券取引所などが出資するICJ(東京)が議決権行使システムを運営しているが、手数料負担の問題もあって、参加する上場企業は約1100社、国内の機関投資家は約30社程度にとどまる。デジタル化促進という政府の方針を受けるまでもなく、議決権行使の電子化促進は待ったなしだ。
ある東証関係者は「今回の議決権問題だけで日本市場への信頼が根底から揺らぐことはないだろうが、東証のシステム停止(10月1日)も含め『凡ミス』で市場への不信がじわじわ広がるのが怖い」と警戒している。