菅義偉首相が日本学術会議が推薦した法律・歴史学者6人を任命しなかった問題を機に、同会議の会員選出や、あり方そのものをめぐる議論が噴出している。その根拠のひとつが、会議には国費から年に10億円が支出されており、会議側にも強く説明責任を求めるべきだとする声だ。
こういった声を背景に、加藤勝信官房長官は2020年10月5日午前の記者会見で、会議のあり方を検討するかどうかについて問われて「私どもとしては必要なコミュニケーションを図っていきたい」と答弁。さらなる動きに含みを持たせた。
ただ、今回のような「あり方」論は、今回の任命拒否の理由が明らかになっていない問題とは別に議論すべきだとする声もあり、「あり方」論のクローズアップが「論点そらし」につながる可能性もある。
「そのための予算も10億円毎年支出されている」
加藤氏は記者会見で、政府の説明不足を指摘する声に対して、会議の設立目的を繰り返しながら、
「そのための予算も10億円毎年支出されているということ、加えて、当然、それぞれのメンバーは特別公務員であるということ、そうしたことを踏まえて、内閣総理大臣が任命権者としての責任において、会員を任命してきた」
などと、過去に政府が説明してきた内容を繰り返した。今回の問題をめぐっては、菅氏が会議のあり方に疑問を持っていることが背景にあるとの見方もある。このことを念頭に、会議そのものや会員任命のあり方について「何らかの検討を進めていくお考えはあるのか」という質問も出た。加藤氏は、会員の選出方法が選挙や登録団体から推薦など、変遷が続いてきたことを指摘し、
「そうした流れに立って、昨今では総合的・俯瞰的な活動から、ということが大事だという指摘も受けているところだ。そうした経緯もしっかりと踏まえて、私どもとしては必要なコミュニケーションを図っていきたい」
と話した。
舛添氏「新進気鋭の若い学者には無用の長物」、野村氏「推薦プロセスを国民に説明すべき」
今回の問題をきっかけに、会議のあり方を疑問視する声も出始めている。元東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏は10月2日にツイッターで、「この組織は不要という立場」を表明。その理由を
「首相が所轄する長老支配の苔むした組織など、新進気鋭の若い学者には無用の長物。首相は優秀な学者に個別に意見を聞けばよいし、政治的発言は各学者が個別に行えばよい」「税金の無駄遣いだ」
などと説明した。
野村修也・中大法科大学院教授も10月4日、10億円の支出を理由に
「国民に説明責任を負うのは当然。現会員が次の会員を推薦する仕組みは、仲間だけの集団になる危険性を孕む。任命を拒否した理由を政府に求めることには賛成だが、学術会議側も推薦プロセスを国民に説明すべきだ」
などと主張。自民党の長島昭久衆院議員も4日、「喧嘩売ってますか?」という声に返信する形で、
「多くの学者や研究者が日々真剣に研究教育に勤しんでいる事に心から敬意を表します。でも、時に「法律家共同体」などと権威を笠に着て、専門家ではない市民を捩じ伏せようとする姿勢に対しては喧嘩を売りたくもなります。今回の学問の自由の履き違いにも、政府に認められた権威集団の傲慢さを感じます」
などとツイート。会議のあり方を疑問視した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)