「ハンコの次はFAXをやめたい」と、河野太郎・行政改革担当相が行政手続きのペーパーレス化・オンライン化の一環として意欲を示した「FAX廃止」。新型コロナ禍では、保健所でPCR検査結果の情報共有にFAXが使われていたことが記憶に新しい。ほかにも、行政や政治など様々な現場でFAXは通信手段として根付いている。何がオンライン化のハードルなのか?
「行政手続き上の押印廃止について各省ほぼ出揃いました。銀行印が必要なものや法律で押印が定められているものなど、検討対象が若干ありますが、大半は廃止できそうです」
官僚、「調整が大変、抵抗も激しそう...」
2020年9月30日、自身のツイッターでそう投稿した河野氏。9月24日のデジタル庁創設に向けた会議で「ハンコをすぐにでも無くしたい」と表明してから1週間。匿名が条件で取材に応じた厚生労働省のある課長級幹部は河野氏のツイートを読み、「スピード感ありますね。次はFAXがやり玉に上げられるのでしょうね」と戦々恐々だ。
この幹部の部署が所管する、地方自治体と頻繁にやり取りをする業務では、自治体が関係機関や企業などとの日常的な事務連絡のほとんどでFAXを使っている。理由は、「FAXでやり取りする方が負担を減らせるから」。関係機関や企業の多くが、今でも業務で主に紙とFAXを使っているという。オンラインでのシステム構築も計画こそあるが、地方の中小企業などは予算が少なかったり、習熟に時間がかかったりして、システムができても本格導入には及び腰なのだという。幹部は言う。
「河野大臣から正式にご指示があれば、それを機会に一気呵成にオンライン化を進めたいです。でも、地方の企業などとの調整が大変でしょうし、抵抗も激しいでしょうね。やらなきゃいけないですが、正直、先が思いやられます」
厚労省に関するものでは、新型コロナウイルス感染者の発生情報などの共有の手段としても、FAXが保健所で使われていた。日本で感染者が増え始めた当初、医療機関は手書きの「発生届」をFAXで保健所に送り、それを保健所が手入力で厚労省などとつながるシステムに手入力で登録していた。
20年3月後半以降に感染者が増えると、発生届の書き込みなどが滞ったり、FAXが通信中で発生届が送信できなかったりする事態が相次いだという。5月に感染者データをオンラインで管理・共有する新システム「HER-SYS(ハーシス)」が稼働し始めてからも、東京都や大阪府など主に都市部の多くの保健所ではそれまで通り医療機関からの紙の発生届をFAXで受け取り、ハーシスに手入力する運用を続けている。なぜなのか。