海外旅行ガイドブックの「地球の歩き方」(ダイヤモンド・ビッグ社)シリーズから2020年9月、初めて日本国内をテーマにした「地球の歩き方 東京」が発行された。
新型コロナウイルスの影響が旅行業界を覆う中での異例の「東京版」。海外ガイドをメインとする出版社からとあってネットは話題になったが、もとは東京五輪という「祭り」に合わせての発行だった。周到な取材の元に出された本書に込められた意図を「地球の歩き方」編集部に取材した。
発行にコロナは関係なかった
本書の発行は20年9月2日付であるが、もともとはコロナに関係なく「地球の歩き方」創刊40周年と東京オリンピックに合わせての企画であった。五輪に合わせて全国の書店で開催されるはずだった東京フェアと観光需要を見込み、「東京版」を企画したと編集部の斉藤麻理さんと宮田崇さんは、J-CASTニュースの取材に話す。
編集方針は妥協せず海外版と同様に情報をてんこ盛り。とはいえ東京の最先端のトレンドだけなら他媒体もカバーするので、地球の歩き方ならではの方針として東京の伝統文化や老舗を掘り下げることとしたそうだ。
本書を手に取ると、なるほど浅草・神田・上野・両国等東部エリアの記述にもかなりの分量が割かれ、江戸文化を受け継ぐスポットが現代の東京の各所に残っていることがわかる。
「一通りの観光スポットの情報はネットで得られる時代に、本にするからにはしっかりと本物の情報をとの姿勢で本書を制作してきました。長く愛されている『地球の歩き方』らしく作りました」(斉藤さん)
と、地名の由来・歴史もていねいに掲載した。旅行の手助けになるだけでなく、読み物としてもためになる本を目指したそうだ。「地球の歩き方」海外版ではニューヨーク・パリ・北京のように都市単独で制作したものもあるが、本書はそれらにも劣らない情報量でつくられた。
同じ日本の都市ではあるが、海外版同様に「旅の準備と技術」の章をもうけ、治安・交通情報もしっかりと記述している。東京人にとっては当たり前の鉄道情報をしっかり掲載していたことも意外かつ新鮮で話題となったようだ。「『旅の準備と技術』は海外版でもよく読まれていますので、東京を旅する人の全ての入り口になるように手厚くまとめました」(宮田さん)とも。豊富な写真・地図・レポートにより、1冊で東京旅行の様々なニーズに応えられそうな本となった。
「地球の歩き方 東京」は、本当は東京五輪で注目が集まる東京をさらに盛り上げるはずだったが、五輪は延期となり、海外旅行専門のはずの本シリーズが国内版を出版したとのことで、発行後思わぬ方向から注目された。
東京観光はしばらく「地産地消」?
本書の旅行業界への影響であるが、地方よりも首都圏で売れているという。「もともと『地球の歩き方』を購入していた海外旅行好きの層や、普段暮らしている東京に改めて興味を持った層が購入しているのではないでしょうか」と斉藤さんは分析する。取材は主に19年の秋から冬にかけて行ったが、五輪延期を経てようやく発行できた。
「東京」にさきがけ、編集部では7月に「地球の歩き方 世界244の国と地域」を発行していた。こちらも東京五輪に合わせて刊行する計画だったものだ。海外渡航が困難な情勢下ではあるが、発行できたことには「シリーズを愛読してくれた読者が暖かい目で歓迎してくれました」と斉藤さんは話した。
「東京」の取材先からは刊行後、感謝のメッセージが編集部に届けられることも。外国人観光客が途絶えて困窮していた東京の観光業界にとっては大きな救いになったようだ。10月からGo Toトラベルキャンペーンに東京が適用されるが、編集部によるとまだ地方から東京観光を喚起する機運にはなっていないとのことであり、しばらくは首都圏を中心に近場の人々が東京を訪れることになりそうである。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)