福岡市内で自転車を無断借用し、占有離脱物横領の罪に問われた無職の男性(24)に対し福岡地裁が無罪を言い渡した判決が報じられ、ネット上で異論も出ている。
判決理由で「一時的な無断借用」との判断が示されたことをうけ、それでは、スーパーのカゴを持って行く「カゴパク」も返せばいいことにならないのか、といった疑問も出ている。若狭勝弁護士に見解を聞いた。
「不法領得の意思があったとは認められない」と結論
「一時的な無断借用の意思であったとみるのが合理的だ」
2020年9月29日の読売新聞ウェブ版の報道などによると、福岡地裁の溝国禎久裁判官は28日、こう述べて、被告の男性に無罪の判決を言い渡した。男性には、懲役10月が求刑されていた。
男性は6月8日、福岡市営住宅の駐輪場に止められていた自転車を無断で約12時間乗り回し、警察官の職務質問を受けて逮捕された。この男性は、窃盗罪で服役中に仮釈放され、5月下旬から市営住宅内に住んで、コンビニやスーパーへ行くのに自転車を1回数時間使って、そのたびに駐輪場に戻していたという。
この自転車は、誰かに盗まれてから放置されていたもので、カギはかかっていなかったという。
判決では、溝国裁判官は「自分の物にしようとしたわけではなく、一時的な無断借用の域を超えない」と判断し、犯罪の要件となる「不法領得の意思があったとは認められない」と結論づけた。しかし、判決後には、「あなたのしたことは褒められたことではない」と説諭したという。福岡地検は、「判決内容を検討し、適切に対応する」とマスコミの取材にコメントした。
この内容が報じられると、ツイッターやネット掲示板では、判決への違和感を訴える声が続出した。
「被告が使ったのが盗難自転車で、今回は特殊性がある」
「え?放置自転車って借りてその場にまた返せば問題ないの?」
「所有者に無断で自分の自由に使った時点で犯罪じゃないのか」
「物は使えば消耗するし、価値も下がる。なのにペナルティーなしは意味不明」
「持ち主が使いたい時に使えない可能性があるんだろ」
レジ袋有料化を受けて、カゴパクの問題が報じられているだけに、「お店に来るたびに一度返却して、再び別のカゴで持って帰れば無罪なのかな」との疑問も出ていた。
一方で、法学を学んだ人からは、不法領得の意思の有無について馴染みのある「使用窃盗」のケースのようで、「刑法の教科書を思い出した」との声が出た。罪に問われることもあるとされるが、無罪になったことについては、「『無施錠』だったという点も判決のポイントなのかな」などの感想も漏れていた。
元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、不法領得の意思についてJ-CASTニュースの取材にこう説明した。
「自分の所有物であるかのように振舞って、自転車などを使ったり処分したりする意思のことを言います。この意思がないとみなされれば、刑法では処罰できません。ですから、自転車が所有物と認められるかがポイントになります」
今回の判決について、無罪となった背景については、こうみる。
「被告が使ったのが盗難自転車で、その持ち主は、持って行かれたことが分かりません。持ち主が置いた自転車が長時間なくなったのであれば、普通は有罪になりますが、今回は特殊性があると思います。また、カギを外したり壊したりすれば、持ち主がした行為ではないので罪に問われますが、今回はそうではありません。判決としては、それなりの理屈が通っているとは思います」
「裁判官によって意見が分かれるはず」
検察がなぜ起訴に踏み切ったかについて、若狭弁護士は、こんな見方を示す。
「15~20分ぐらいの乗り回しならともかく、12時間も乗っていれば、自分の所有物のような振る舞いだとも見られます。また、毎日のように乗っていれば、そう判断されます。今回は、被告が自転車窃盗を行って服役していたとすれば、有罪になった可能性はあると思いますね」
判決の妥当性については、こう言う。
「無罪としたのは理解できなくもありませんが、12時間も自転車に乗ったりしていたのは重いと思います。裁判官によって意見が分かれるはずで、ボーダーラインの微妙なところでしょう。検察は、高裁でひっくり返る自信がなければ、控訴しないで判決が確定する可能性もあると思います」
返すつもりのカゴパクが罪に問えるかについては、こう話した。
「これも、不法領得の意思があるかの問題になります。スーパーから持ち帰ったカゴを家に何日も置きっぱなしにしたり、家の中にカゴがいくつもあったりした場合は、窃盗罪が認められる可能性があります。持ち帰ったカゴを次の日に返すようなら、それが認められない可能性が出てくると思います」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)