もちろんネットのほうが楽だろうというイメージは何となくあるが、実際のところどんな違いがあるのか。国勢調査員と、所管する総務省に話を聞いた。
紙での回答方法は『郵送』と『回収』の2通り
国勢調査は統計法や国勢調査令にもとづいて実施され、「5年に一度の最も重要な統計調査」(総務省の公式サイト)と位置付けられる。国や地方自治体の行政施策などの基礎資料を得るためのもので、子育て支援、高齢者福祉、防災対策、地域活性化などさまざまな政策づくりに役立てられる。
設問は氏名、出生年月、現在の住居における居住期間、就業形態、世帯員の数など16問。調査対象は、「令和2年(編注:2020年)10月1日現在、日本国内にふだん住んでいるすべての人(外国人を含む)及び世帯」と広範だ。
そして、担当地域の各世帯に調査書類を配布して回るのが、全国の「国勢調査員」である。各市区町村での公募や町内会の推薦などによって選ばれ、総務相が非常勤の国家公務員として任命する。その国勢調査員をつとめているという複数のツイッターユーザーが強く推奨しているのが「ネット回答」だ。万単位でリツイートされた投稿もある。国勢調査の公式サイトでも「回答はできる限りインターネットでお願いします(郵送も可能です。)」としているほか、配布される調査票にも「インターネットでの回答がとても便利です」と書いている。
とはいえ、具体的にネット回答はどんな点で紙の回答と違うのか。総務省統計局国勢統計課の担当者は18日、J-CASTニュースの取材にこう説明する。
「紙での回答方法には『郵送』と『回収』の2通りあります。『郵送』は郵便局やポストがご自宅の近所にあればいいですが、必ずしも近くにはない家庭もありますね。『回収』の場合は、調査員がご自宅に来るのを待つ必要があります。調査員は多くの家庭を順に訪問するので、いつでもすぐに回収に行けるわけではありません。
その点、インターネットであれば24時間いつでも回答が完了できます。また、郵送であれば問題ないですが、回収となると調査員と面会しないといけません。新型コロナウイルスの関係で感染リスクにもなりかねないので、面会や外出しなくて済むネット回答を推奨しています」
「一番のメリットはログインすれば手直しが出来ることでは?」
北海道に住む20代男性の調査員もネット回答を勧める1人。取材に対し、「ネット回答は、回答側が郵送しなくて良いのが利点ですね。好きな時間に回答できます。逆に紙の回答で受け取り(回収)を希望された際、直接取りに行かなければなりません。こちらで事前に所定の書類を記載する必要もあり、手間がかかります」と話す。回収の場合はどんなことをするのか。
「回収に行って不在だった場合、最低3回訪問しなければなりません。郡部の場合は1軒1軒の距離が遠いため、ガソリン代が想像より高くなります。外灯がない地域では調査する家の特定にも時間がかかりますね。今後ネット回答のみになれば、調査員の負担はかなり減ると思います」
前回15年調査に続けて今回も調査員をつとめる埼玉県在住の40代女性も、取材に対し「ネット回答なら調査員を挟まずにすぐに回答できるのが利点です。どうしても調査票配布→(回収時に)中身のチェック→聞き取り、と何度か伺うことになるので...」と話す。そのうえで「しかし、一番のメリットはログインすれば手直しが出来ることではないでしょうか? 郵送の場合、修正はほぼ不可能なので...」とも付け加えた。
この「修正」について、前出の総務省担当者はこう解説する。
「ネット回答の場合、入力内容に誤りがあった場合、期限の10月7日までであればいつでも回答の修正ができます。一方、紙の場合は市区町村に連絡して口頭で伝えるという手間がかかります」
回答の誤りはそれほど多くないと言うものの、ありがちなのが新生児について。9月下旬に出産した世帯で、生まれた子の入力を忘れることがあるという。これが漏れると新生児の数が統計上減ることになる。「我々としても、市区町村に出産の届出をした際に、『国勢調査への記入をお忘れなく』と呼びかけています」という。
「やること多いなーっていうのが第一印象」
紙の回答について、前出の調査員の女性は「前回の調査員時の話になりますが、回答用紙が届いて数字がまとめられ、それを調査員が持つ『一覧』にメモすることになります。用紙を読み込んでまとめるよりもネット回答で入力された物の方が確実な気がします」と話している。調査員の作業がもう1つ多くなっていたわけだ。
女性は今回3区域160軒以上を受け持ち、各家庭を回る。実際の仕事の流れとその印象、何が大変だったかの体験談を聞いてみたところ、前回との比較も含め、こう明かした。
「5年前も今回も、やること多いなーっていうのが第一印象です。国勢調査員になると家に書類が届くのですが、段ボール1箱にぎっしり...私の力では持ち上げることが出来ませんでした。前回は初めてのインターネット回答が始まった年で、対面でネット回答のお知らせを手渡さねばならず大変でしたが、今回は国勢調査のお知らせチラシをポスティング→回答用紙配布で、随分ラクになったなーと思いました。
前回は『インターネット回答用紙』と『郵送もしくは手渡し回答用紙』が別だったのです。しかも不在の場合には『何月何日何時に伺いましたがお留守なのでまた何月何日に伺います』ってメモを残さなきゃいけなくて...。自分の名前と電話番号も書かねばならなかったので、家に問い合わせが数件ありました。その後にネット回答してない世帯にまた訪問して郵送回答用紙を配って...と本当に大変でした。
今回は1つの封筒に『インターネット用紙』と『郵送回答用紙』が入っているので1回で済むし、不在のメモも廃止されてました。前回と比べたら本当に楽です! 問い合わせ先も統計局と市の担当の番号が明記してあり、何かあればそちらから担当者に連絡が来るシステムになっているので家の電話が鳴ることがなくて安心です」
「ネット」36.9%、紙の「郵送」34.1%、それ以外29.0%
ネット回答の導入・推奨により、調査員の負担が減るのは間違いなさそうだ。現状、配布時には訪問する必要があるものの、回収がなければ単純に訪問回数が減る。訪問先で怒鳴られたり怪しまれたりするという報告もネット上の調査員というユーザーからあがっているが、そのようなトラブルも減りそうだ。
ただ、ネット回答は前々回10年調査で東京都のみ導入、前回15年調査で初めて全国導入されたばかりで、普及はまだ十分とは言えない。総務省の担当者によると、前回の回答方法の比率は「ネット」が36.9%、紙の「郵送」が34.1%、残り29.0%がそれ以外だった。
「それ以外」の中には、「回収」だけでなく「聞き取り調査」も含まれる。国勢調査は原則本人に回答義務があるが、聞き取り調査はやむを得ず本人が回答できない場合に行うもの。同担当者によると、国勢調査令にもとづいた方法で、周辺住民から氏名や家族構成(世帯における男女の人数)といった限られた項目のみを聞き取る。本人が調査期間中たまたま海外に出ていたり、船舶関係の仕事で長く自宅を不在にしていたりする場合などに用いることが多い。
この聞き取り調査を行うのも国勢調査員の仕事。つまり紙の「回収」の場合と合わせ、先述した「それ以外」の29.0%の回答方法では、調査員が対応する必要が出てくることになる。同担当者によると、回収については「1度の訪問で不在だった場合、日時を指定して再度回収に行くよう我々から調査員に指示を出しています」といい、何度訪問しても回収できなかった場合、聞き取り調査に切り替える。集団の一部を対象に調べる「標本調査」とは異なり、集団すべてから回答を得る「全数調査」をとる国勢調査にとって、必要な手順という。
「不審がる方には調査員証をじっくり見てもらう」
一方で今回、国勢調査を騙った詐欺や不審な調査が横行していることが明らかとなり、総務省や消費者庁も注意を呼びかけている。本物の国勢調査員かどうかを見分けるポイントとして同省は、「調査員は、その身分を証明する『調査員証』を携帯しています。※一部の地域では、調査員業務を『建物を管理する事業者等』に委託しており、『国勢調査業務委託証明書』を携帯しています」とサイト上であげている。「調査員証」「腕章」「手さげ袋」の3つを身につけていることが、調査員であることの目印となる。
前出の調査員の女性も、訪問先で安心して対応してもらえるよう気をつけている点として、やはり「説明会では『三種の神器』(バッグ、腕章、調査員証)を必ず身につけて行くように言われました」としたうえで、「不審がる方には調査員証をじっくり見てもらいます。そして納得していただいた後には必ず『その防犯意識は素晴らしいです!自分以外は偽物なので注意してください』とお伝えします」と話した(J-CASTニュースも調査員証を確認済み)。
女性は前回、町内会で選出されて調査員をつとめ、その時の経験で「国が主導でやるからこそ、国の政策に響く統計が出せると言われ、5年後もまたやろう!と思ったので今回も調査員やってます」という。今回、調査期間に入ると積極的にツイッターで発信するようにしている。「詐欺の注意喚起はもちろんですが、国勢調査自体の認知度も上がって欲しいのでツイッターでもどんどん情報発信していきたいです」と話している。
国勢調査は調査書類が届いたら回答でき、ネット回答は9月14日から10月7日まで、紙の回答は10月1日から7日まで受け付けている。10月7日までに回答が確認できない場合、10月8~20日の間に「調査員が回答のお願いに伺います」(総務省の公式サイト)という。
(J-CASTニュース編集部 青木正典)