岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 「警察は敵だ!」黒人女性殺され、怒る群衆たち

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「こんなに大勢いたら、逮捕もできないだろ」と笑う警官

   途中で他の地域のデモ隊も合流し、人数は1000人ほどに膨れ上がった。

   マンハッタンの14丁目辺りで、デモ隊は逆戻りし、今来た方向へ向かって歩き始めた。これからまた、橋を渡ってブルックリンに戻るのだろうか。

   その頃には警官たちも、デモ隊に続いて道路を歩いていた。デモ行進は許可を得ずに、交通を妨げて繰り広げられている。

   私は警官たちに声をかけた。

「交通を妨げられたとか、市民から苦情が寄せられますか」
「うん、それがね。驚くかもしれないけど、意外に少ないんだよ」

   市内でも地域によって差があるだろうが、やはりここはニューヨークなのだ、と思った。

   「こんなに大勢いたら、逮捕もできないだろ。今日はよく歩いたよ」と警官が笑った。

   抗議デモが始まる前に、話しかけて来た参加者の1人、若い黒人の青年の言葉を思い出す。

「ここに集まる人たちの中には、ものすごい怒りを抱えている奴らも少なくない。僕たち黒人は長い間、酷い差別を受けてきたよ。もちろん、それは事実だ。でもそれを言い訳にしてはいけないんだ。ただ怒りをぶつけることで、それがネガティブに作用してしまう危険性がある。 大事なのは、君と僕が今しているような対話だろ? 君はどこから来たの? 日本か。日本は長寿国で、天皇制があって。そんなふうに相手のことを知ろうとすることが、大事なんじゃないのか。ほとんどの人は極左や極右じゃない。僕や君みたいに、中間なんだ。そういう普通の人たちの声が、メディアでは取り上げられないんだ」

   夜11時、私はデモ隊を抜けて、家路に向かった。地下鉄のホームで、デモに参加していたという白人女性2人が、電車を待っていた。

   「警官が今日はよく歩いた、って言ってたわ」と私が笑うと、「あなた、警官と話したの?」と驚きながらも、「警官がそんなこと、言ってたの?」とほほ笑んだ。それが、妙に嬉しかった。(随時掲載)

 

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

           
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