コロナ時代の「金融」に必要なのは... 5つのキーワードで読み解く「金融庁の重点施策」

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   コロナ禍を乗り越えて地域経済を再生していくために必要な施策は何だろうか。

   金融庁が2020年8月31日に発表した「令和2事務年度 金融行政方針」(以下、行政方針)では、社会構造や産業構造が転換を迎える時代で取り組むべき3つの重点項目が掲げられている。

【3つの重点項目】
1.コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く
2.高い機能を有し魅力のある金融資本市場を築く
3.金融庁の改革を進める

   金融行政方針とは金融庁が今後1年間でどのような施策を重点的に行うかをまとめているもので、毎年発表している。本記事ではこの重点項目の中からビジネスパーソンが特に注目しておきたいキーワードを解説しよう。

金融庁のある中央合同庁舎第4号館(Wikimedia Commonsより、っさん撮影)
金融庁のある中央合同庁舎第4号館(Wikimedia Commonsより、っさん撮影)

「金融機関への規制緩和」「金融サービス仲介業の実現」

【重点項目1:コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く】コロナ禍により収入が断たれた個人や経営状況が悪化した法人に対して資金繰りの支援策を重点的に行う。支援を必要としている個人・法人に対して合理的かつ手厚い策を金融機関ができるような施策を金融庁が打ち出している。

(注目キーワード1)金融機関への規制緩和

   銀行を初めとする金融機関は、事業会社への出資が制限されているが、この制限の緩和を目指した検討を行う。規制が緩和されると例えば、地方創生を目指す企業を主体的に支援したり、IT関連の資源を合理化したりできるようになる。

   また事業を行う法人などがローンを組むときに金融機関に提供する担保は、土地や会社の清算価格などの「資産」が基本となっている。もっと将来性を評価するためには、今行なっている「事業」に注目しその事業が担保にできないだろうかと検討を進めていく。

(注目キーワード2)金融サービス仲介業の実現

   金融機関が提供している金融商品やサービスを仲介するには金融庁の許認可が必要となっている。銀行代理業、金融商品仲介業...のように業態別の規制となっている。ここでいう金融商品とは株や投資信託などの証券のこと。

   それに対し銀行、証券、保険全ての分野で金融サービスを仲介する「金融サービス仲介業」という新しい規制を金融庁が検討している。金融サービス利用者の利便性を向上するために必要な施策である。新しい規制が実現できれば、異業種からの金融サービスへの参入が増えるに違いない。そのための審査を効率的に行う体制の確立も金融庁の課題だ。

「英語による金融行政」「AIを活用したマネロン・テロ資金供与対策」

【重点項目2:高い機能を有し魅力のある金融資本市場を築く】資産運用を行う金融機関での運用の高度化や企業の開示情報の充実化が投資家の利益につながる。投資家が損失を被らないような市場の監視機能も高める。また海外の金融規制当局との連携することで、日本が国際水準の金融規制に支障を来たすことを避ける。

(注目キーワード3)英語による金融行政

   日本が海外からもっと注目されて、国際金融機能の確立に努める。そんな取り組みの中で最も注目したいのが「英語による金融行政」である。金融業に参入するために必要な許認可や、検査・監督プロセスの英語化を進める。それにより海外金融機関が日本で受け入れやすくなり、国際金融機能が強化されることになる。なお、金融庁の公式サイトには英語版のコンテンツも用意されており、全く英語対応を行っていないわけではない。

引用元:金融庁/英語版トップページ
引用元:金融庁/英語版トップページ

(注目キーワード4)AIを活用したマネロン・テロ資金供与対策

   犯罪組織が不正に得た資金を正常な資金に洗い替える「マネー・ローンダリング」(略称:マネロン)やテロ組織へ活動資金を渡す行為は、世界的に関心が高く防止が求められている。日本では2019年10月にFATF(金融活動作業部会)というマネロン防止のための活動を行う国際組織により防止・対策状況の審査が行われた。

   結果公表はまだ行われていないものの、改善が必要な課題がいくつか発表される見込みである。その課題を重点的に解決するだけでなく、AI(人工知能)を活用してかつ金融機関が共同利用できるマネロン防止システムの検討を行い、対策の高度化を進める計画がある。AIの活用や金融機関での共同利用は目新しい。

「地域金融機関による経済発展への貢献」

【重点項目3:金融庁の改革を進める】

(注目キーワード5)地域金融機関による経済発展への貢献

   テレワークの推進や行政手続きの電子化、押印手続きの原則2020年に廃止などで金融行政業務を合理化することを掲げている。

   またコロナ禍の影響が大きい地域経済を下支えするのが地方銀行などの地域金融機関である。地域金融機関を直接検査・監督する財務局と金融庁の連携度合いを密にすることで、地方金融機関に対する支援を厚く行うことを掲げている。

   行政方針全体を通して地域金融機関への対応について要所要所で言及しており、コロナ禍を乗り越えるための策として地域金融機関の健全な運営を求めていることが読み取れる。

【注目キーワードまとめ】
1.金融機関への規制緩和
2.金融サービス仲介業の実現
3.英語による金融行政
4.AIを活用したマネロン・テロ資金供与対策
5.地域金融機関による経済発展への貢献

   本記事での注目キーワードからは、あえてデジタル化を外した。行政方針にはデジタル化を推進し顧客利便性を高めていく。サイバー攻撃をはじめとしたリスクに対応していく旨が述べられている。

   社会構造が変わらなかったとしても技術は発展していくので、自ずとデジタル化は進んでいく。コロナ禍により業務のリモート化が加速したことは言うまでもない。

   デジタル化は金融からすれば道具でしかない。その道具を上手く使いこなさなければ実現できないキーワードが今回紹介した5つというわけだ。

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