米中以外の国でも「踏み絵」迫られる
両国関係が決定的に悪化したのは2020年4月、豪州が新型コロナウイルスの発生や感染拡大の経緯について、独立した調査を要求したからだ。当時、発生源の中国に対し情報開示が遅れたなどとして欧米で批判が起こり、賠償論も広がっていた。このため、調査要求した豪州に強く出て威嚇することで中国批判の拡大を抑えようとしたとみられている。その後、香港や南シナ海を巡っても豪中の関係悪化が加速している。
中国は5月に「検疫上の理由」で豪産食肉の輸入を一部停止したほか、豪産大麦の価格が不当に安いなどとして、80%超の追加関税を課すことも表明。8月には豪産ワインに関して反ダンピング(不当廉売)調査に着手したと発表した。
さらに、豪州で近年のチャイナマネーの流入への警戒感の広まりもあって、米中対立とも相まって、2020年3月に海外からの全投資案件を審査すると決定。6月には安全保障に関わる事業への投資について規制を強化する方針を決めており、キリンHDの「ライオン飲料」売却にストップがかかったのも、こうした流れの延長上にある。
キリンHDにとって、ライオン飲料の売却で、海外の低採算事業の整理にほぼかたを付けられるはずだっただけに、今回の断念は痛手だ。新型コロナウイルスの感染拡大で、世界の飲料・食品業界は業績が悪化しており、新たな売却先を探すにあたっては、売却額が蒙牛乳業との契約額を下回る懸念もある。
今回の案件に限らず、「米中対立の激化で、日本企業が米中どちらにつくかの〝踏み絵〟を迫られる局面が増える」(シンクタンク)。それは、直接米中両国だけでなく、関係国も巻き込んだ幅広いものになっていることを、今回の豪州の例は示した。国際展開する日本企業が解かなければならない連立方程式は、また難度を増した。