最低賃金引き上げ論
アトキンソン氏はかつて米大手証券ゴールドマン・サックスで日本経済分析のアナリストを務め、いわば新自由主義経済の米国からの「伝道師」ともいえる存在。最低賃金引き上げなども訴えており、賃金が低いから非効率企業が増える、といった主張をしている。
ただ、中小企業が非効率だと、単純に割り切れるものでもない。少人数で大工場を動かす大資本と、細かい部品を労働集約的に作る町工場を単純比較しても、国全体の産業構造で、町工場なしに自動車産業などが成り立たないことを考えれば、どれだけ意味があるかは疑問。日本のように大メーカーが何万社もの中小サプライチェーンを抱えるモノづくりが柱になっている国と、製造業が育たず、低税率で米国などの巨大IT企業や金融機関の本社を誘致しているだけの欧州などの小国を比べれば、後者の生産性が高くなるのは当然だが、だから国の経済力が日本は劣っているというわけではない。
一般に大企業の方が生産性は高いが、力の弱い中小企業が取引条件(納入単価など)で不利な扱いを受けるというように、中小企業の付加価値の一部が大企業に奪われていることも一因と指摘される。
2020年版の「中小企業白書」「小規模企業白書」(中小企業庁)は、中小企業の実態は極めて多種多様であり、期待される役割や機能を意識した支援策が必要だと強調しているのは、長年の中小企業政策からは当然の指摘だが、菅政権は、こういう姿勢を転換するのだろうか。