新型コロナウイルス禍は、故人との最後の別れのあり方も変えた。葬儀は高齢者の参列が多いうえ、通夜振る舞いや精進落としなど酒食の場での感染リスクが高いためだ。コロナ禍で葬儀は小規模・簡素化を余儀なくされ、葬儀会社は「リモート葬儀」も推し進める。一方、地方で執り行われた葬儀の中には都市部から遺族らが参列することを見送ったケースも。変容する葬儀のあり方を探った。
東京都江東区の自営業・山中雅寛さん(64)は2020年8月下旬、故郷の広島県三次市で執り行われた叔父(当時85)の葬儀に参列した。新型コロナウイルスの感染防止のためもあり、葬儀は家族葬でこぢんまりと執り行われた。参列者の大半がマスクを着用し、会食こそあったが感染防止のため会話も控えめだったという。
東京から参列、「地元の会葬者は嫌がる」と断られ・・・
ただ、その中に、東京に住む叔父の長男一家はいなかった。長男が勤める上場企業から欠席するよう求められたという。理由は「会社の都合」ということだったが、山中さんは「(コロナの『第2波』で感染者が急増していた)東京から行くと迷惑がかかるし、万が一でも感染させてしまったら会社の責任も問われかねない、と考えたのでは」と推測する。山中さんは言う。「最後の挨拶もできぬまま火葬されてしまうなんて...。残念です」
東京都品川区の会社員の男性(49)は8月中旬、岩手県内で暮らしていた父の葬儀(当時81)に参列しようとしたところ、喪主の兄(52)から帰省を控えるよう頼まれた。「東京から来るとなると、地元の会葬者は嫌がる。申し訳ないが、また(コロナが)落ち着いたら身内だけでお別れ会をやろう」などと、メールと電話で伝えられたという。
男性の兄は葬儀の様子をスマートフォンでビデオ撮影し、後日送ってくれた。男性は動画を見て、多くの父の友人や地元の関係者が参列し、和やかな雰囲気で葬儀が行われたことに安心した。それでも、自分が父と最後の別れができなかったことに、悔いが残る。
「岩手は最近までコロナの感染者がおらず、しかも私の地元は山間部なので、今でも東京など都市部から来る人への警戒心が解けないそうです。仕方がないことはわかっているのですが、そこまで過剰に構える必要があるのかと思います」
こうした傾向は地方で行われる葬儀だけの傾向ではない。大手葬儀会社「公益社」によると、コロナ禍で、同社が主に展開する首都圏と近畿圏の直営葬儀場で行われた葬儀でも、遠方に住む親類が参列を控えたり、遺族側も遠方の親類に控えてもらったりするケースが多いという。