「コロナで閑散とした今のように、19年前のあの時もニューヨークは沈黙していた」
アメリカ同時多発テロ事件の跡地で、父親に捧げる白いバラを手にした女性が私にそう語った。
ニューヨークにいれば必ずそうするように、私は今年もあの地に足を運んだ。新型コロナウィルス感染を恐れ、街にまだ人影は少ないが、「この日はこの場にいたい」と、追悼式典会場の外には、遺族だけでなく一般市民の姿もあった。今回の連載では、コロナとの闘いの最中、大統領選間近のこの街で、私が見た「9.11」を報告する。
ニューヨーカーは皆、「大切な仲間」を亡くした
2020年9月11日朝、ニューヨークの空は曇っていた。現地に向かう地下鉄で、言葉を交わした40代くらいの女性が言った。
「事件が起きたあの朝、雲ひとつない晴天だったのを覚えてる? 天候は違うけれど、悲しみは今も同じ。私は直接の知り合いを亡くしたわけではないけれど、私たちは皆、亡くしたのよね」
知り合いかどうかは関係ない。私たちニューヨーカーは皆、「大切な仲間」を亡くした、ということだろう。
追悼式典は今年も、ハイジャック機2機が激突して崩れ落ちた世界貿易センタービル(World Trade Center)跡地で行われたが、コロナ感染防止のため、参加する遺族の数は絞られた。またいつもなら、遺族が2人1組で犠牲者の名前を1人1人読み上げるが、前もって録音された音声が流された。