Jリーグは「大反発」をどう受け止める? 「フォント統一」で聞いた3つの「なぜ」

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   Jリーグが2020年9月15日に発表したユニフォームの名前や背番号の「フォント統一化」に、ファン・サポーターから反発の声があがっている。フォントはそれ自体をブランディングに活用してきたクラブもあり、個性を形作る要素の1つになっているためだ。ツイッターで「#Jリーグユニフォームのフォント統一に反対します」というハッシュタグが作られたほか、署名サイトで反対署名を募る動きもある。

   統一フォント導入の大きな理由は「視認性の向上」にある。観戦・視聴環境が多様化する中で、背番号や名前を判別しやすくしようというわけだが、サポーターの反発をどう受け止めるか。複数の観点からJリーグに見解を聞いた。

  • 発表されたJリーグオフィシャルネーム&ナンバー
    発表されたJリーグオフィシャルネーム&ナンバー
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  • 発表されたJリーグオフィシャルネーム&ナンバー
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「選手を覚えていただくきっかけのひとつでもある背番号」

   統一フォントは「Jリーグオフィシャルネーム&ナンバー」として21年シーズンから導入される。数字とアルファベットが統一され、書体名は「J.LEAGUE KICK(Jリーグ キック)」。フォントはシンプルなもの1種類だが、カラーは白・青・赤・黒・黄の5色がある。

   デザインを手がけたのはデンマークの世界的デザイン会社Kontrapunkt(コントラプンクト)。監修には日本のデザイン会社タクラムや、「ユニバーサルデザイン」を掲げるとおりNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)が関わった。

   対象試合はJリーグの全公式戦。具体的にはJ1、J2、J3の各リーグ戦、リーグカップ戦、J1参入プレーオフ、スーパーカップが含まれる。一方、天皇杯やAFCチャンピオンズリーグ(ACL)は対象外となる。

   導入の大きな理由は視認性向上のため。「これまでのネーム&ナンバーのデザイン選定には視認性を確保するための基準などが明確に定められておらず、観戦・視聴環境によっては背番号の視認が困難なケースも見受けられました」とした上で、「この度、ユニバーサルデザインを取り入れた統一デザインを採用し、使用するネーム&ナンバーとユニフォームとのカラーコントラストにも一定の基準を設けるなどの取り組みによって、Jリーグ公式試合全体の観戦・視聴環境の向上につなげていきたいと考えています」とねらいを説明している。

   村井満チェアマンのコメントも掲載しており、導入の背景として「スタジアムでの観戦だけではなく、スマートフォンやタブレット端末等による様々な観戦・視聴方法が拡がっている潮流にあわせて、誰もがより選手を判別しやすい観戦・視聴環境づくりを推進していくことを目的としています」としたほか、「選手を覚えていただくきっかけのひとつでもある背番号を通じた、選手への興味・関心の拡大にもつなげていきたいと考えています」と説明した。

   だが、15日の発表直後からインターネット上は「大荒れ」状態となった。

「致し方ない」「個性が無くなる」

   ツイッターでは「皆が見やすい表記になるなら、嬉しい決定だと思います」「背番号の視認性はサッカーの根幹に関わる問題だから致し方ない気がする」と賛同する声ももちろんあるが、次のような反発の声が目立つ。フォント統一化について知らせたJリーグ公式アカウントの投稿には18日16時現在、400件超のリプライと2300件超の引用リツイートが寄せられるほど議論が広がった。

「たかがフォント、ではない。されどフォント」
「反対です。各チームの個性が無くなりますし、ユニフォームのデザインと合わなくなると思います」
「反対します。いくつかのクラブは既にブランディングに多大なコストをかけてオリジナルフォントを創り、サポーターもその価値を見出しているし、既にアイデンティティを確立しています」
「決定事項が極端過ぎる。具体的にどこのチームが見づらかったのでしょうか? 視認性向上が目的ならその過程で各クラブに働きかける等の行為はあったのだろうか?」
「反対。せめてカラーバリエーション増やして現行のクラブカラーを損なわないように配慮してください」

   ハッシュタグ「#Jリーグユニフォームのフォント統一に反対します」のツイートが一時盛り上がりを見せたほか、署名サイト「Change.org」ではフォント統一の撤回を要望するための署名も、15日のうちに立ち上がった。

   それだけファンにとってただ事ではない事態といえる。フォントがブランド化しているクラブとして最も名前があがるのが、J2・ジェフユナイテッド市原・千葉。Jリーグ発足時から四半世紀以上にわたって同じフォントを使い続けている。また、フォントのカラーが現行では緑のため、カラー変更も余儀なくされる。

   他にも、たとえばJ1・清水エスパルスはクラブオリジナルフォントとして「S-PULSE DRIBBLE」を制作し、背番号や名前に採用している。J2・東京ヴェルディ1969もフォントについて「ブランドアイデンティティーと日常をつなげる重要な役割としての書体。エンブレムからユニフォーム・書類まで書体を適材適所で使用する」と、ブランド価値を担っていることを公式サイトで説明している。

報告があがっていた「背番号の視認性不良」

   先述の村井チェアマンのコメントにあるとおり、Jリーグは特に動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」の中継がはじまった17年以降、観戦・視聴環境が多様化。スマートフォンやタブレットのような小さな画面で視聴することも珍しくなくなった。生観戦でも、スタジアムによってはスタンドからピッチまでに距離があり、選手の顔が判別しづらいこともある。

   また、「選手を覚えていただくきっかけのひとつでもある背番号」という言葉からは、新規ファンやライト層への配慮もうかがえる。そうすると背番号や名前が見やすいことは、ファンに選手を覚えてもらうことを考える上でも大事な要素となり得る。

   この点についてJリーグの広報担当は18日、J-CASTニュースの取材に「新規ファンやライト層の皆様にもJ リーグにより関心を持っていただき、楽しんでいただくきっかけの一つにしたい思いも、もちろんございます。これまで応援いただいている皆様にとっても、J リーグの試合がより観やすく、楽しんでいただける効果が生まれることを目指して取り組んでおります」と答える。すべてのファンに配慮した結果ということだ。

   「視認性」については、13~18年の間に「背番号の視認性不良」というマッチコミッショナーからの報告を43 件(ユニフォームは25例)受けたという。リーグにとってこの数字は決して馬鹿にできない。

「報告は年4、5 クラブで発生しており、観客の皆様への配慮不足、ジャッジへの影響、改善要求等が継続的に指摘されていました。5 クラブで発生している場合、年間100試合以上の観戦に影響が生じている事になり、その状況を軽視する事はできませんでした」(Jリーグ広報、以下同)

   Jリーグでは2年かけて統一フォントの議論をし、クラブとの合意形成を進めてきたという。

「本件は2018 年より議論を開始しました。背番号フォントについてはクラブ毎に独自の考え方があることは認識しており、統一することによって様々な葛藤があったことは事実ですが、全クラブの実行委員が参加する実行委員会、クラブ代表理事、外部識者が入る理事会でと複数回議論を重ねて参りました。当初クラブからは、実施について反対論もありましたが、現状の課題や統一の目的について議論を重ね、最終的には『リーグ全体の平均点を上げる』という考え方に賛同いただきました」

「クラブのオリジナリティ」と「見やすさ・分かりやすさ」のバランス

   海外でも統一フォントは導入例がある。Jリーグによると、プレミアリーグ(イングランド)、ラ・リーガ(スペイン)、リーグ・アン(フランス)といった欧州5大リーグに含まれる国々のほか、MLS(米国)でも導入。プレミアリーグについては1997年に初代、2007年から2代目、17年から3代目と変遷しており、カラーも今回のJリーグのものとほぼ同様の5色(赤・ネイビー・黄・白・黒)が採用されている。

   そして問題は、サポーターの反発だ。3つの観点から質問をぶつけた。まず「クラブの個性がなくなる」「独自性を排除している」といった声をどう受け止めるか。

「フォント統一によりクラブのオリジナリティを毀損するのではないかという意見はクラブとの議論の中でもいただいており、十分認識しております。今回ファン・サポーターの皆様からいただいたご意見については真摯に受け止めたいと考えます。

クラブのオリジナリティを表現するに際し、ユニフォームのネーム&ナンバーフォントは重要な要素の一つだと考えますが、ユニフォームそのもののカラーやデザインなど様々な要素の組み合わせによるもので、先行して導入しているプレミアリーグ、ラ・リーガ、リーグ・アンなどを見ると、ユニフォームのネーム&ナンバーフォントを統一することで、クラブのオリジナリティが壊されるものではないと考えました。

クラブのオリジナリティと見やすさ・分かりやすさをいかにバランスさせるかという議論の中でのチャレンジとご理解いただきたいと存じます。

統一は2021 シーズンからスタートさせていただきますが、今後もファン、サポーターの皆様からの声も伺いながらPDCA を回して参ります。新しいネーム&ナンバーをスタジアムや様々なデバイスでぜひご覧いただき、ご意見いただければ幸いです」

個別の確認は最大336パターン...「物理的に不可能」

   2つ目は視認性と個性の両立。いきなりJ リーグ統一デザインでなく、まず視認性が低いユニフォームのクラブへ個別に改善を促す、という対応はできなかったのだろうか。

「今回の統一は、フォント形状の検証・実地検証(日照条件、遠方視認、動き、向き)・コントラスト検証(各クラブのユニフォーム生地色と使用番号色とのコントラスト比チェック)の工程を経て、理想とする視認性が確保される運用となるように推進しています。

頂いた質問にあるような『視認性の低いユニフォーム』を検出して改善するには、(J1・2・3の)全56クラブ×[フィールドプレーヤー+ゴールキーパー]×[1st+2nd+3rd]=最大336パターンの背番号使用方法を対象に前述の各検証項目を行う必要があり、必要に応じて改善を促し、修正し、認可可能に至るまで再検証を行う...という緻密な工程を、各新ユニフォームの開発工程の中に組み入れることは日程面などで物理的に不可能と考えます。視認性の向上(底上げ)、一定基準以上の視認性を保つ、という理想の追求のためには、統一デザインによる管理が必須であると考えました」

   3つ目はなぜカラー指定が白・青・赤・黒・黄の5色なのか。クラブカラーとマッチしない可能性や、先述した千葉の緑のように現行カラーが指定に含まれないクラブもある。

「視認性の向上を目的としてカラーを選定しています。カラーユニバーサルデザイン機構様が推奨されている『アクセントカラー・どのように組み合わせても違いが分かりやすい色』と、過去3年間のJ リーグ全クラブ(FP・GK・1st・2nd・3rd全タイプ)での番号使用上位色、その両方の条件に適合するカラーを選出した結果、『5色が適当』であると判断し、全クラブへの説明を経て合意へ至りました。

なおクラブカラーはユニフォーム生地本体にて表現され、背番号色はその対比色が使用されるのが通例であるとも言えます。(上記調査によると、番号使用色の約77%を白と黒が占めています)」

   導入は来季から。実際に統一フォントのユニフォームが使われた試合を続ける中で、どのような反響があがってくるか。回答にあるようにJリーグは「今後もファン、サポーターの皆様からの声も伺いながらPDCA を回して参ります」という姿勢だ。今後の動向も注視したい。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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