「ジョン・F・ケネディが今、生きてたら、共和党員になってるよ」
ニューヨーク・ブルックリンで行われた「社会主義」を唱えるデモ行進を聞きつけ、赤の他人の地元住民3人が立ち話。そのことについては、この連載の前回「コロナが生み出す『社会主義』デモ」と、前々回「社会主義デモに反発、勝利誓う共和党支持者」で触れた。
立ち話をしていた3人のうちの1人エリオット・ゴードンが、「今の民主党への思い」を私に語った。今回は、それをそのまま、伝える。
「今のは、同じ民主党じゃない」
「かつての民主党には、何の反感も持ってないよ( I got nothing against the Democratic Party the way it used to be)。ビル・クリントンの時にはまだ、抵抗はなかった。が、今のは、同じ民主党じゃない」
エリオットはニューヨーク市で生まれ、ルドルフ・ジュリアーニ氏が市長(1994年1月ー2001年12月)だった時に、彼の元で働いたことがあるという。彼は民主党がどのように変わったと感じているのか。
「民主党は、左翼にハイジャックされてしまった。今が1960年代だったら、トランプは民主党だよ。ジョン・F・ケネディが生きていたら、共和党だ。デ・ブラジオ(ニューヨーク市長)もクオモ(ニューヨーク知事)もAOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)も、どうにかしている」
エリオットが最後に挙げたオカシオ=コルテス氏は、史上最年少で女性下院議員になった(ニューヨーク州選出)。ブロンクスで生まれ、母親はプエルトリコ出身。父親亡き後、ウェイトレスなどをしながら、家計を支えた。
彼女は自身を民主社会主義者(Democratic Socialist、社会主義と民主主義を支持し、資本主義とは相反する)であるとし、国民皆医療保険、公立大学の学費無償化、米移民・関税執行局の廃止などを訴えている。
「自分の手で稼ぐのではなく、ほしいものはタダにしろという。そのために使われるのは、自分たちの税金だ」
「オバマも好きというわけじゃなかったが、バイデンや(民主党副大統領候補の)カマラ・ハリス、オカシオ=コルテスと比べたら、オバマは中道だ」
寛容性を失った左派
さらにエリオットは、左派がいかに寛容性を失ったかを、切々と訴え、トランプ大統領を強く支持する知り合いの話をした。
「彼女はNYU(私立NewYork University=ニューヨーク大学)の大学院で神経科学を学んでいる。MAGAハット(「Make America Great Again」と書かれた野球帽)を被っていようものなら、ひどい中傷を浴びる。しかも教授が、トランプをこき下ろす辛辣なジョークを言う。知性が集まっているはずのあの大学で、その有様だ。(共和党の大統領だった)レーガンやニクソンの時代に、そんなことはなかっただろう」
私もかなり前にNYUの大学院で学んだが、教授陣にはリベラルな民主党支持者が多い。ほかの学校でも、高校教師や大学教授が授業中にトランプ氏を批判するという話を、私自身、何度も聞いている。
「メディアの偏向報道にも呆れる。トランプがやることはすべて、気に食わないんだ。イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の関係正常化に向けて、歴史的な合意が結ばれた。それを仲介したトランプ大統領はノーベル賞ものだよ。なのにFOXニュース以外のメディアは、ろくに報道すらしないんだ」
9月11日には、同様にバーレーンとも国交正常化に合意したと発表されたが、これに対してパレスチナは強く反発している。
エリオットはまた、デ・ブラジオ市長がニューヨークの治安にまともに向き合っていないと憤る。市内ではここ数か月の間に銃撃事件が増え、犯罪が急増している。また、性犯罪者やドラッグ依存症などのホームレスの姿を路上でよく見かけるようになり、コロナ感染拡大を避けるためにホームレスをシェルターから移動したホテルが集まる地域などでは、住民が不安の声をあげている。
「警官が叩かれて、力が弱くなっているから、ギャングらはやりたい放題だ。市長さんよ、トランプタワーの前の五番街に、一緒になってペンキで『BLACK LIVES MATTER』を書いている場合じゃないよ。流れ弾に当たって、幼い子供が撃たれている。治安が最優先だ。問題にちゃんと対処してくれよ」
エリオットは、彼の友人で「ガーディアン・エンジェル」の創設者であるカーティス・スリワ氏を次期市長にと、人々が立ち上がったことに触れ、「それが今のニューヨークの現実だよ」と言い放った。
「ガーディアン・エンジェル」はニューヨークで犯罪が多発していた1970年代後半に、地下鉄での暴力と犯罪から市民を守るために作られた非営利団体で、世界的な組織へと成長した。
ジョージ・フロイド氏の死をきっかけに起きた抗議デモに便乗し、この街で強奪が起きた時、ガーディアン・エンジェルが体を張って商店を守り、メンバーらが怪我を負った。
「トランプ支持者は、人々が思っている以上に多い」
トランプ政権は2020年8月の共和党大会でも、「法と秩序(Law and Order)」を前面に打ち出した。
「トランプはタフだ。民主党の市長や知事みたいに、おもねることはしない。(共和党に転じた)ジュリアーニもそうだった。市長だった時、彼を嫌っていた人は多い。でも、凶悪犯罪からニューヨークを守り、治安改善に大きく貢献した。2001年の『アメリカ同時多発テロ事件』の対応は素晴らしかったよ」とエリオットは、この2人を称賛する。
ニューヨークでは今も市内各地で、毎日のように抗議の声があげられている。規模はさまざま、テーマもいろいろだが、社会主義を訴えるデモも目立つ。とくに週末は多く、これを書いている2020年9月12日には、市内各地で少なくとも17の抗議運動が繰り広げられている。
エリオットは言う。
「新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、人々は職を失い、学校へ行けなくなり、そしてジョージ・フロイドのあの忌まわしい許し難い事件が起きた。こうしたネガティブなことすべてが1つになって、完璧な嵐を巻き起こした。
本当にバカげている。でも、太陽が昇る前はいつも、真っ暗だ。僕は楽観論者だから、事態は逆転すると固く信じている。トランプ支持者は、人々が思っている以上に多い。支持していても、バッシングが恐くて口にできないんだ。フェイスブックで『Trump 2020』なんて書こうものなら、友達を一気に失う。40年来の友だってそうだ。あんな男を支持するなんて、お前はひどいやつだ、ってね。でも僕らは多数派だ。僕らは勝利する。そう思うよ。そう思う」(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。