国の観光支援策「Go Toトラベル」から「除外」されてきた東京発着の旅行を追加する方針が決まった。2020年10月1日からの旅行について割引などの対象になる。この夏、東京都民や地方から東京への観光客の需要を取り込めずにいた事業者らは手放しで喜び、「乗り遅れた」形の都民や都内の事業者向けの追加支援を求める声も。一方で新型コロナウイルスの「第3波」を懸念する声も聞かれた。
9月11日に赤羽一嘉国土交通相がこの方針を明らかにした。新型コロナウイルスの新規感染者数が減少傾向にあるためで、近く最終判断する。
待機する大量のバス逆手に... 「解除」に向け準備万端?
「率直にうれしいです。(東京のGo Toトラベルへの)追加をきっかけに、少しずつ『旅行に行こう』という雰囲気が生まれてくると期待しています」
バスツアーの最大手「はとバス」の石川祐成広報室長は9月11日午後、J-CASTニュースの取材に対し、そう喜びの声を上げた。
「かき入れ時」の8月、東京発着の旅行が「除外」され、例年8月は約6万7000人の利用があったのに、20年は約3000人に。観光バス事業の8月の売上高は、前年同期の10億5000万円から2000万円へと激減した。
はとバスは、「東京除外の解除」で、東京から近県へのバスツアーの需要から戻ってくると見越す。例年10月に3万本のコキアが見頃になる国営ひたち海浜公園(茨城県ひたちなか市)や高級ブドウのシャインマスカットが食べ放題になる山梨県内のぶどう園などへのツアーを企画し、9月からパンフレットの配布も始めている。予約も入り始め、9月19日からの4連休には1日20台ペースで稼働予定だ。
ただ、利用客の7割を占める、地方から東京への観光客の利用はすぐには戻らないだろうと見込む。
「元々、地方からの利用客は、東京で結婚式があったり大きなイベントがあったりした『ついでに』皇居や浅草などの観光も楽しむという方が多かったのです。大規模な結婚式やイベントが連日行われたり、企業が頻繁に出張を入れたりといった状態にはすぐに戻らないでしょう」(石川さん)
除外解除に向けて課題なのは、長時間「密」な状態が続く観光バスの換気システムが利用者に十分に浸透していないことだという。このためはとバスでは、5分前後で車外の空気と入れかわる換気実験の体験会とともに、数十台のバスが稼働せず待機している状態を逆手にとって、バスを迷路のように配置して子どもらに楽しんでもらおうと、「今しかできない!『バスでつくる巨大迷路体験』」イベントを企画した。
都民は「乗り遅れた」状態? 追加支援や延長求める声も
東京都内の企業や学校の団体旅行を中心に扱う「飛鳥旅行」の村山吉三郎社長も取材に、
「都内の中小規模の旅行業者は『このままだと潰れる』という状況。東京が解除となるのをずっと待っていましたので、非常にうれしいです」
と喜ぶ。すでに解除を前に、10~11月の紅葉シーズンの旅行で「Go Toトラベル」の割引適用を希望する個人客らから、問い合わせが入り始めている。ただ、職場での旅行や修学旅行などの団体向けは依然、動きがないという。
9月19日からの4連休前の解除も期待していた一方で、4連休は「Go To」を活用するとみられる東京以外の他道府県の人々による予約で埋まってしまった宿や航空機も多く、「都民が『Go To』を使えたとしても『乗り遅れた』ような状況です」(村山さん)だという。
都内の観光業界からは、「乗り遅れた」形の都民らの旅行向けに、割引の上乗せなど追加支援を求める声がある。村山さんも「追加支援やキャンペーン期間の延長など、(都民や都内の事業者も)メリットを公平に得られるよう、配慮していただきたいです」と話した。
東京都小笠原村で民宿を営む40代の男性は、
「コロナの感染者が増えている状況で島に来られて、万が一感染者でも出たら困ると思っていました。でも、公に東京も追加されるのでしたら、観光客を受け入れやすくなります。他県からも小笠原に来られる方もいるでしょう。助かりますね」
と語った。9月まではマリンスポーツなども楽しめるが、10月以降の小笠原は「オフシーズン」に入る。一方で、年明けから春にかけてはホエールウォッチングを楽しむにも適しているという。
「(Go Toトラベルの)キャンペーンが少なくとも来年春の旅行まで延長されるなら助かります。あとはコロナの『第3波』がこの冬に来ないことを祈るばかりですね」