「本当に貧しい人たちを心配しているなら」
そこへ彼の知り合いが車で通り、「野球の試合がないからな」と声をかけ、笑いながら去っていった。きっとデモについて、前にも同じことを言い合っていたのだろう。
どこからともなく集まってきた、3人の赤の他人。民主党寄りのニューヨークで肩身の狭い彼らトランプ支持者は、水を得た魚のように一気にしゃべりまくった。
そして、「我々の勝利さ。世論調査なんか関係ない!」「トランプ! トランプ! トランプ!」「あと4年!」とトランプ氏再選を誓い合い、別れを告げた。
エリオットはこのあと、「今の民主党への自分の思い」を語ってくれた。次回のこの連載では、それを紹介する。
3人と別れた頃には、デモ隊はすっかり姿を消していた。そのあと、デリーに入ると、食べ物を買い求める警官が4、5人いた。このデモのために、約10人の警官が駆けつけた。中で順番を待っていた40代ほどの白人女性が、同意を求めるように1人の警官に向かってつぶやいた。
「本当に貧しい人たちのことを心配しているんだったら、デモばっかりしてないで、子供たちに勉強を教えたり、地域のためにボランティアでもすりゃあいいだろ」
警官は黙って、うなずいた。
(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。