自民党総裁選に出馬している岸田文雄・政調会長が出産費用の実質無償化をめざす考えを述べ、2020年9月9日から10日にかけて「出産費用ゼロ」というワードがツイッターのトレンド入りを果たした。菅義偉・官房長官の「不妊治療の保険適用」発言に続き、ネット世論の大きな関心を集めた形だ。しかし、個々のツイートをみると「支援が必要なのは出産より養育費」といった意見が多い。
岸田氏は9月9日、自民党総裁選の候補者討論会などで、「育休などの環境整備、保育所などの受け皿の整備、出産費用を実質ゼロにする後押しも大事」と発言。討論会では菅氏だけでなく、石破茂・元幹事長も「大変な痛みと大変な経済的な負担に耐えながら不妊治療をしている人は日本に46万人いる」と言及するなど、各候補者とも少子化対策への取り組みをアピールしている。
出産時の自己負担は平均で8万円ほど
SNS分析ツール「ソーシャル・インサイト」で調べたところ、「出産費用」「岸田」のワードを含むツイート・リツイートは9日と10日で計約3万4000件(10日14時現在のサンプリングされた数値)あった。中立的なツイートが大多数という分析結果で、実際に個々のツイートを見てみると、特にコメントを付けず単にリツイートされたものばかりだった。
ただ、コメント付きのツイート・リツイートを見てみると、「出産費用ゼロにすることは良いこと」といった賛意を示すものも一部であるが、多くは冷静な意見だった。
「少子化抑制の一歩は妊娠するまでと、出産するまでと、出産してからの手当をそれぞれ分厚く欲しい」
「正直なところ、出産する時点で費用ゼロだからって更に子供を作ろうとする夫婦は多くないと思います。それよりも将来設計。大学の無償化や子育て世代の減税などしてもらえるとうれしいですね」
「少子化の理由は出産費用が問題なわけではないと思いますけれども。安心して育てることができる経済状況を作る、子供の養育を母親一人の問題にしない、一人親でも育てることができる環境を整える...もっと重要な問題がありますよね」
実際に出産にかかる費用はいくらなのか。検査内容や分娩方法、利用施設などによって大きな差があるが、国民健康保険中央会のまとめによれば、2016年度の正常分娩の出産費用は平均で50万5000円程度だ。加入している健康保険から出産育児一時金として42万円が支給されるため、平均で8万円ほどが自己負担となっている計算だ。
「保育園、職場復帰、学費...出産後の支援も」
現在、約10年勤めた食品メーカーを休職しながら子育て中の女性(33)は「出産費用だけ無料では焼け石に水です」と批判的だ。
「預けられる保育園が見つからず、予定より長く休職せざるを得ませんでした。2年間の育休後、職場にちゃんと復帰できるかも不安です。フリーランスとして働く夫は年収が100万~200万円ほどなので、育児手当と合わせても、かなり切り詰めないと生活していけません。幼稚園、小学校となれば、学費をどうひねり出すか...。ためらうことなく安心して産めるよう、出産後の支援もあわせて考えていただきたいです」
文部科学省がまとめた2018年度の「学習費調査」によると、子ども1人あたりの教育費、給食費、学校外活動費の総額は、公立の幼稚園なら22万3647円▽私立幼稚園52万7916円▽公立小学校32万1281円▽私立小学校159万8691円となっている。加えて、医療費や食費なども当然、かかってくる。
菅氏が打ち出した「不妊治療の保険適用」と合わせ、自民党総裁選は、出産や子育てに対する日本の不十分な支援制度について改めて人々の関心を高める効果はあったのかもしれない。