岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
コロナが生み出す「社会主義」デモ

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デモに対するトランプ支持者の視線

   集会のあと、デモ参加者らは、大きな黒いバナーを掲げ、大声をあげながら閑静な住宅街を行進し始めた。さらに人数が増え、80、90人はいるのではないかと思われる。自転車に乗ったグループがデモ隊の前を進み、交差点に入ると自転車を横にして並び、両サイドの道路をブロックし、デモ隊が通り過ぎるまで車を止め続ける。

   車の長い列ができ、「邪魔だ」というようにクラクションを鳴らす車も数台ある。が、これも、警察は遠くから眺めているだけで、手を出さない。

   デモ隊の騒ぎを聞きつけたのだろう。角にある宗教関連っぽい建物から男性が出てきた。お椀を逆さにしたような形の黒い「ヤムルカ」を頭に被り、白いシャツに黒い長スボン姿。おそらく、正統派ユダヤ教徒だろう。彼らの中には、トランプ支持者が多い。この辺りでは、彼のような正統派ユダヤ教徒をよく見かける。

   「何だ、あれは?」と男性が私に聞く。

   「この国が資本主義ではなく、社会主義になるべきだと訴えているんですよ」と私が答える。 

   角を反対側に曲がって行進し続けるデモ隊にちらりと目をやると、なまりのある英語で私に向かって大声で叫んだ。

The land of the free, right? The land of the free, America! The land of the free. They give you everything. Look, they give you food to eat. They give you everything! Is it normal? To bring down the police? Is that normal?
自由の土地、そうだろ? 自由の土地、アメリカ! 自由の土地。アメリカは何でも与える。だろ。食べ物を与える。何だって与えるじゃないか! ノーマルか、警察を引きずり下ろすなんて? それがノーマルか?

と、別の男性が新聞と買い物のビニール袋を手に通りかかり、私たちの前で足を止めた。

   そして次の瞬間、「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」と書かれた赤い野球帽を被った、東洋系の女性がどこからともなく興奮気味に現れ、私たちの輪に加わった。

   3人の赤の他人は、すっかり意気投合。水を得た魚のように、延々と熱弁を奮い始めたのだ。極端に民主党寄りのニューヨークで、トランプ支持者は肩身の狭い思いをしている。彼らがふだん話せない本音を、次の回で伝えたい――(次回に続く)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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