大型で非常に強い台風10号が通過した2020年9月6日から7日にかけて、九州各地の避難所では新型コロナウイルス対策で収容人数を制限した結果、満員となったところが相次いだ。一部では受け入れを断られ、暴風雨の中で移動を余儀なくされた避難者も。コロナ禍が長引く中で到来した台風シーズン。感染リスクを抑えながら災害時の安全をどう確保するか、難しい課題となっている。
内閣府は台風10号の接近前、自治体に対して避難所における「3密」回避とともに、できるだけ多くの避難所を確保することなどを通知した。これを受け、九州各地の自治体は避難所の収容人数を減らしたり、避難所内の通路幅を約2メートルにしたりするなどの対応を取った。
避難所から避難所へ、「移動がかえって危険では?」
宮崎市内でクリーニング業を営む男性(55)は6日、自宅近くを流れる一級河川の「大淀川」が氾濫する恐れがあるとテレビで繰り返し報じられたため、妻と母、子ども2人の一家5人で避難することにした。ところが近くの指定避難所に6日夕方に着くと、入り口に「当該避難所は定員が一杯となりました」という張り紙が。そこで車で別の避難所に向かったが、そこも「もうすぐ定員なので...」と、職員に渋られた。
市内は既に大雨で、時折暴風が吹いていた。80代の母親は体調が悪く、悪天候の中の移動は負担だ。男性は職員と掛け合い、母親と男性自身は避難させてもらえることになった。妻と子2人は車で別の避難所に移動し、そこで受け入れてもらったという。男性は言う。
「コロナだから仕方がないし、私たちも避難するのが遅かったと思いますが、まさか断られるとは思いませんでした。津波のようにもっと切羽詰まった状況だったら、移動がかえって危険になるのではないでしょうか」
市危機管理課によると、宮崎市内ではコロナ対策で106カ所開設した避難所の大半で定員を半分以下に減らしたことから、一時21カ所の避難所で避難者数が定員に達した。担当者はこう説明する。
「エアコンがあるなど条件のいい避難所から埋まったようです。定員を超えた避難所の情報は防災メールや市ホームページなどを通じて早めにお伝えしましたが、暴風域に入った時間になってから来られて、別の避難所を移っていただいた人がいたかも知れません。今後の課題です」
識者、「避難者数の把握、避難のあり方の周知徹底を」
こうした事態は6日、九州各地で起きた。
長崎県五島市は6日、市内全域で避難指示を出し、一時10数カ所が満員となった。市は、満員の避難所に来た避難者は別の避難所に移ってもらうよう依頼したという。鹿児島県内でも南九州市や薩摩川内市など多くの自治体で満員となる避難所が続出。スマートフォン向けのエリアメールや防災無線で住民に知らせたという。
幸い、今回は避難所間の移動時の被害は確認されていないが、切迫した状況で、住民そして自治体はどのようにすればいいのだろうか。防災システム研究所の山村武彦所長は、「危険区域は感染防止より避難が優先」とした上で、J-CASTニュースに次のように話す。
「19年10月の台風19号襲来時に東京都内の13市区町村で避難所が満員になった場所があったように、コロナがなくてもそもそも避難所として使える施設が足りないのが実情です。一方で、自治体は災害発生時、『一刻も早く全員避難を』と呼びかけるため、一部で避難所が定員オーバーになってしまうのです」
「本来、優先的に避難しなければいけないのは浸水想定区域や土砂災害警戒区域など危険区域の住民です。逆に、水害が想定される時に、例えばマンションの中層階以上の人など、安全が確保できた人は在宅避難が原則です。自治体は、優先的に受け入れるべき避難予定者数を正確に把握し、場合によっては安全な場所に住む親類や知人宅、ホテルや旅館などへの『分散避難』も含めて、住民への避難のあり方の周知徹底と意識啓発が必要でしょう」
一方、コロナ禍が長引く中、感染を恐れて避難しようとしない人もいるという。どうすればいいのか。
「熊本市では、新型コロナに感染している人は指定医療機関に避難させ、経過観察中の人などは保健避難所を設置することにしました。(新型コロナの感染が続く間、)自治体は率先して住民が感染を恐れて避難をためらわないような対策を取り、住民に周知する必要があります」