外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(20) 日本は「グローバル対話」の促進者に

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コロナ禍と国際協力

   今のコロナ禍に匹敵する規模の国際危機を思い浮かべれば、2度にわたる世界大戦以外には思い浮かばない、と川端さんはいう。もちろん戦争と疫病は違うが、世界的な広がりとインパクトの大きさ、中長期的な見通しの不確実性は、戦後には経験したことのない危機だ。では2度の大戦の時と同じように、危機のさなかに、危機後の国際協調を構想する動きはあるのか。目立つのはむしろ、中国寄りと非難してトランプ政権が7月にWHO(世界保健機関)からの脱退を通知するなど、逆に分断に向かう流れだ。ワクチンや治療薬の開発も、協調の動きは一部にとどまり、むしろ自国優先や、「アフター・コロナ」で覇権を握ろうとする姿が目立つ。米中の覇権争いの中で、日本はどう振る舞うべきなのだろうか。

「日本の戦後外交の柱は日米関係重視、アジア近隣外交の推進、国連中心主義の3本柱でしたが、実態は米国が認める範囲でアジア外交、国連外交を行うというものでした。しかも国連については、『協力する』と言いつつ、受け身の姿勢だった。加盟国の集まりである国連を利用して、自らのビジョンを実現する、という発想に欠けていた」

   川端さんはそう指摘し、もし日本が国際協調の促進者としての役割を果たすのであれば、まず自らのアイデンティティを確立して、世界の中での立ち位置を明確にする必要性を訴えた。外交や安全保障をアメリカに依存する限り、グローバル対話の促進者としての役割はおぼつかない。

   そのうえで川端さんは、もし日本がWHOをはじめとする国連機構の改革を求めるなら、

1.日本は国連で何がしたいのか - 国連を通して実現すべき具体的なビジョンを示す

2.目的達成のために、事務局長などのトップに人材を送る

3.同時に、邦人の一般職員の増員に向けた具体的目標と行動計画を設定する

4.日本国内で、邦人の国連職員を増やした場合、どのようなメリットがあるのかを説得したうえで、国連に働きかける

などの具体的な行動が必要だという。漫然と国連外交の強化を願うのではなく、国連で達成すべき目的と国益との関係を理解したうえで、人事と予算の執行権を握る国連事務局へ日本人を送り込む具体的措置を、政府や国会が一丸となって進める必要がある。

   日本人の国連職員は30年余り、100人前後で推移し、少しも増える気配はない。他方中国は急速に送り込む人材を増やし、今は国連食糧農業機関(FAO),国際民間航空機関(ICAO)、国際電気通信連合(ITU)、国際連合工業開発機関(UNIDO)などの国際機関のトップに人材を送り込んでいる。

「潘基文事務総長の時代に、国連はPKOの物資供給や輸送など、ロジスティックスを担当する局長のポストを日本に打診したことがあった。PKOの実態に精通できる重要なポストなのに、外務省は『全面的にバックアップできる余力がない』と断った。もし日本が国連中心主義を本気で実施するのなら、願ってもないポストでした。」

   米中の覇権争いが続く今でも、日本は国際機関を利用して独自の姿勢を打ち出すことが」できる、と川端さんは言う。

「たとえば中国による香港の治安への直接介入について、日本は名指しをしなくても、人権や自由を保障すべきと国連総会で演説し、正論を主張することはできる。国際機関では、誰もが反論できない『自由・人権の擁護』、『民主主義の促進』、『武力による国境変更の禁止』などの普遍的な原則が確立しています。日本はこのような建前を国連で堂々と主張しつつ、2国間外交で経済関係の重視など本音を伝えるような、したたかな外交を推進すべきではないでしょうか。トランプ政権が『自国第1』を唱えるなら、日本はアメリカから一歩離れて、独自のアイデンティティを築き、それを国際機関で堂々と主張すればいいのではないでしょうか」
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