外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(20) 日本は「グローバル対話」の促進者に

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   世界の行き来を止めたコロナ禍は、私たちが自明の前提としていたグローバル化が、いかに脆いかを示した。ヒト・モノ・カネの自由な流れは、いつ復活するのか。それまでの間、変容を続ける国際関係は、やはり「新常態」として定着するのではないか。国際関係の実務、理論に通じた二人の専門家と共に、日本がコロナ禍で果たすべき役割考える。

  •                     (マンガ:山井教雄)
                       (マンガ:山井教雄)
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国連の政務官を務めた川端清隆さんに聞く「グローバル化」

   「グローバル化」という言葉を聞くと、反射的に、ある人物の顔が思い浮かぶ。

   たぶん、日本人の中でもかなり早い時期に、冷戦の終わりと、その後のグローバル化の流れを現場で体感した人だ。ニューヨークの国連本部の政治局で、1988年から25年間、政務官を務めた福岡女学院大学特命教授の川端清隆さん(65)に8月25日、ZOOMで話をうかがった。インタビューの内容をご紹介する前に、川端さんが「グローバル化」を直に目撃した場面、2001年9月11日に立ち返ろう。

   その朝、川端さんは、ニュージャージー州北部のテナフライの自宅を出て、ハドソン川を挟んで対岸にあるマンハッタン行き高速バスに乗車した。

   バスは、リンカーン・トンネルに入る前に,マンハッタンの全体を眺望できるニュージャージー側の小高い場所を通る。しばしば映画やテレビなどで使われる撮影ポイントだ。雲一つない秋晴れで、前面の青空に摩天楼の輪郭がくっきりと浮かび上がっていた。

   午前9時の少し前だった。座席でニューヨーク・タイムズの朝刊を読んでいると、周辺にざわめきが広がった。

   窓から外を見ると、マンハッタン南部にあるワールド・トレード・センターのツインタワーのうち、北棟の上部から大きな黒煙が噴き出し、空を覆って棚引いているのが見えた。

   火事か?ガス爆発か?

   とっさに思い付いたのは、何らかの事故の可能性であった。しかしそのうち、携帯電話に流れるニュース速報を見た乗客が、「飛行機が突っ込んだらしい」と漏らした。

   マンハッタン観光のセスナ機が突っ込んだのだろうか。過去の事故を思い起こしながら推測していると、目の前で今度は南棟が巨大なオレンジ色の焔に包まれ、煙を噴き上げた。

「また飛行機が突っ込んだぞ」

   信じられない光景はその瞬間で途切れ、バスはトンネルに入った。バスの終点は、全米最大のバス発着ターミナル「ポート・オーソリティ」だ。まだ地下鉄は動いていた。タイムズ・スクエア42丁目駅から地下鉄に乗ってグランド・セントラル駅で降り、マンハッタンの東端、イースト川に面する国連本部ビルに向かった。

   ビル入り口は閉鎖されており、職員は全員、地下会議場に集められた。国連ビルへの攻撃を恐れたためだ。それから昼近くまで待機を命じられる間、CNNは「ワシントンが狙われた模様」「行く先不明の飛行機が数機あり、当局が調査中」などの速報を流し続けた。国連職員は紛争や大規模な人道的危機への対処に慣れており、いま目の前で起きていることが未曽有の大事件であることは皆が理解できた。だが、理解できたのはそこまでで、アメリカの中心部に対する意図的かつ組織的な攻撃がどのくらい大変なことで、その結果世界がどう変わるのか、だれも想像さえ出来なかった。

   正午前に、国連本部は閉鎖のまま職員は帰宅を命じられ、川端さんは徒歩で「ポート・オーソリティ」を目指した。ターミナルが見えるタイムズ・スクエアまで行くと、バスの発着場がある建物はすでに閉鎖されていた。ニュージャージーにつながるジョージワシントン橋も通行止めになっており、やむなく近くの路上で夕方まで待機した。ツインタワーの様子は高層ビルの陰になって分からなかったが、タワーの方向から黒煙が高く上り続けているのが見えた。周りを警察車両や救急車がけたたましくサイレンを鳴らしながら走り回り、頭上には米軍の戦闘機が飛び交い、マンハッタンは戦時下のように騒然としていた。夕方まで路上に座り込んでいると、ようやくバス会社の職員が出てきて、「ニュージャージーに帰る人はペン・ステーションからの列車に乗るように」と拡声器で知らせていた。マディソン・スクエア・ガーデンがあるペンシルベニア駅まで歩き、ニューアーク空港駅にたどり着いた。さらにバスに乗り継ぎ、自宅近くのショッピングセンターから家族の迎えの車で帰宅したのは、すでに深夜に近かった。

   攻撃に使われた4機の旅客機は、いずれもボストンなど東海岸の空港から西海岸に向かう国内便だった。セキュリティの厳重な国際便を避け、燃料を多く搭載する西海岸行きを選んだのは、犯人たちに破壊力を最大化する狙いがあったことを示している。だが、それよりも川端さんの神経に引っかかったのは、アメリカン航空2機、ユナイテッド航空2機のいずれもが、ボーイング社の機体を使っていたことだ。ボーイングの機体はコックピットの仕様が共通しているため、その操縦法を覚えれば、違う航空会社でも乗りこなすことができる。だがそのことより、かすかに気になったのは、川端さんが和平交渉の任務で通うようになったアフガニスタンの国営航空会社であるアリアナ航空が、同じボーイング社の機体を使っていたことだった。

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