保阪正康の「不可視の視点」
明治維新150年でふり返る近代日本(53)
関東大震災は近代日本史をどう変えたのか

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「天譴論」が広がり見せた理由

   関東大震災時には、日本社会は情報閉鎖集団であった。まだメディアも充分発達していなかった。そういう集団の中に意図的なルーマーを投げ入れるのである。するとどうなるか。その集団は恐怖と不安と、そして敵対意識を高揚させ、暴力化していく。あるいは残酷化していく。そういう変化は日本だけでなく、どこの国でも、どの時代でも起こりうるのだ。そのことは情報の公開、情報の正確な流れ、そして悪質な情報を排斥するシステムが出来上がることこそ暴走する人心を生まないということになるだろう。

   そのことを関東大震災は教えていることになる。自警団のような病的心理は社会そのものが病んでいることでもあった。社会主義者を惨殺した亀戸事件、無政府主義者の大杉栄が陸軍内部で暗殺された事件などは、そういう病的心理が社会の中軸に据えられていたことがはからずも裏づけたのであった。

   そして(3)を見ていくことにしよう。このころの日本人は道理から外れ、あるいは退嬰(編注:たいえい、進んで新しいことをする意欲に欠けること)に流されているから、天が変わって罰を加えたというのがこの天譴論であった。渋沢栄一などが唱え始めて広がった。この考えも一部の人々に受け入れられていった。(第54回に続く)




プロフィール
保阪正康(ほさか・まさやす)
1939(昭和14)年北海道生まれ。ノンフィクション作家。同志社大学文学部卒。『東條英機と天皇の時代』『陸軍省軍務局と日米開戦』『あの戦争は何だったのか』『ナショナリズムの昭和』(和辻哲郎文化賞)、『昭和陸軍の研究(上下)』、『昭和史の大河を往く』シリーズ、『昭和の怪物 七つの謎』(講談社現代新書)『天皇陛下「生前退位」への想い』(新潮社)など著書多数。2004年に菊池寛賞受賞。

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