「ROE革命」で貯め込む
本来、「実物投資空間」の利潤率は、国債利子率と連動し、代替できるのが原則だった。
企業はお金を借りて事業を行い、得られた利潤から金利を払う。利潤と利子の源泉は同じだ。違いは利潤が事後的に発生するので、偶発性があるのに対して、利子は事前に契約することで発生し、恒常性があるという点だ。だが長期的に見ると、利子率と利潤率はほぼ連動する。長期金利の目安になるのが10年国債の利回りということになる。
ところが、実物投資によって資本を増やすシステムが限界に近づいた米国は、経済的に支配下にある外国から多額の利子・配当を得て優位性を保とうとした。
その仕組みを支えたのが、米国発の「ROE」(自己資本利益率)革命」だ。これは「ReturnofEquity」の略で、「当期純利益/自己資本」で算出される。これは株主資本の増加率を示し、これが高ければ高いほど資本の自己増殖が加速する。経産省は2014年8月に報告書(「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築」)を公表し、この「ROE」を「最低8%」にまで高めることを推奨してきた。
「この報告書には雇用者の生活向上という視点はまったくありません」と水野さんは言う。
それを側面から支えてきたのが、日銀による「ゼロ金利」と「量的緩和政策」だった。
企業は、銀行や株主から融資を受け、その活動で得た利潤を賃金や利払い、投資へと振り向ける。だが、利子率と利潤率が乖離してしまえば、本来払うべき利払いを大幅に引き下げることができる。もちろん、その反面、家計の担い手である一般の個人は、金融機関に預金をしてもほとんど利子がつかない状態が続いた。
もう一つ、資本の増殖率を高めるために採用したのが、人件費の「変動費」化である。これまでは、売上高から変動費と固定費(人権費)を除いた営業利益が調整項目だった。だが、最終的な利益が絶対に確保しなくてはいけない目標として「固定費」化すると、どこかで調整するしかない。つまり人件費を減らすことによって、企業利益を増やす方法だ。
こうして、この間に企業は、支払うべき利払い、賃金を減少することで得られた膨大な利益を、「内部留保」という形で貯め込んできた。
それには、背景がある。
バブル崩壊後の1997年から翌年にかけ、山一證券、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行などが次々に破綻した後、企業の間には「貸し剥がし」「貸し渋り」に走る金融機関に対し、「もう頼りにできない」という空気が生まれ、資金を貯め込んで自己防衛する傾向を強めた。こうした「守り」の姿勢が、株高による企業の好調と、それとは裏腹の家計への圧迫を招いた。
念のため改めて書くと、こうしたことは、すべて「コロナ禍以前」に、水野さんが指摘していたことだ。