外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(19)アベノミクスの今と、資本主義の行方

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法政大教授・水野和夫さんに聞く「資本主義の終わり」

   いつ終わるとも知れないコロナ禍を前に、グローバル化した資本主義はどう立ち向かい、変容していくのか。これまで世界史を縦軸、現代の経済変動を横軸にとって、精緻な分析をもとに資本主義のありようを論じてきた法政大教授の水野和夫さん(66)に、8月19日、ZOOMでお話をうかがった。

   水野さんは早稲田大を経て埼玉大大学院で経済学博士号を取り、現在の三菱UFJモルガンスタンレー証券に入社。同証券チーフエコノミストを務めたあと、2010年に内閣府大臣官房審議官、翌年に内閣官房内閣審議官を経て16年から法政大で教鞭をとってきた。実務、行政、研究の各方面で鍛え抜かれたエコノミストだ。

   昨年2月、水野さんは母校の愛知県立旭丘高校の同窓会「鯱光会」で「資本主義の終焉と歴史の危機」と題する講演をした。

   その中で水野さんは、歴史家ヤーコブ・ブルクハルトが「世界史的考察」で指摘した三つの「歴史の危機」を引用し、現代を「4度目の危機」と定義した。

   「歴史の危機」とは、「既存のシステムが崩壊し、機能不全に陥っているが、いまだ新しいシステムの姿、形が見えない状況」を指す。ブルクハルトは、「ローマ帝国崩壊後、カール大帝の戴冠式まで」、「ビザンチン帝国崩壊で中世が終わり、ウエストファリア条約で近代の国民国家が形成されるまで」、「フランス革命などを経て絶対王政が倒され、市民社会が到来するまで」という三つを、「歴史の危機」の例にあげた。

   では、なぜ今が「第4の危機」といえるのか。水野さんは、平成の時代が日本ではバブル崩壊、ドイツではベルリンの壁崩壊に始まり、日独が史上初のゼロ金利で幕を閉じることが、象徴的だったという。冷戦期に、互いに生産力増強を競い合った東西陣営の対立が終わり、ふと気づけば、世界は「過剰・飽満・過多」の状況になっていた。

   日本では年間40億着の衣類を生産して10億着を廃棄し、食品産業は1~2割の商品を廃棄し、住宅メーカーは13%の空き室率なのに毎年100万戸の新興住宅を建設している。

   10年もの国債利回りが日独でゼロにまで低下したのは、「生産力増強の時代」が終わったことを意味する。つまり、ここでの「ゼロ金利」は意図的な金融政策というより、「実物投資によって雇用と所得が増加し、国民の生活水準が向上する」という近代資本主義の限界、システムが飽和点に達したことを示している、という。

   資本を自己増殖させるシステムが「資本主義」であり、利子率は資本主義の成績表だ。13世紀以来、世界で最も低い金利を経験した国は、800年の歴史で、わずか6か国しかなかった。複数年にわたって長期国債利回りが2・0%を下回ったのは、過去に、1611年から11年間続いたイタリア・ジェノバしかなかった。

   では、繁栄するグローバル資本主義のもとで、なぜこんな現象が起きているのか。水野さんはこう指摘する。

「世界史は蒐集(コレクション)の歴史です。13世紀になるとヨーロッパで従来とはまったく違う都市が現れた。最下層から商人が誕生し資本が都市に投下され、以来現在にいたるまで都市の資本は利潤率(利子率)の高い地域に再投資され、西欧文明と資本主義を世界中に広げっていった」

   資本の増加率を測る尺度が利子率だ。「世界史は利子率の歴史である」と水野さんはいう。今でいう「資本」に近い「利息のつくお金」という概念が生まれるのは13世紀のことだ。以来、金利急騰は財政破綻のサインを意味していた。では、これがゼロに近づくということは、何を意味しているのか。

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