外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(19)アベノミクスの今と、資本主義の行方

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緩む財政規律

   この間、日銀は国債を買い続け、2019年末時点で485兆円の国債を保有するまでになった。これは政府の国債発行残高の47%を占める数字だ。日銀は、「政府による財政資金の調達支援」という「財政ファイナンス」ではないという立場を取り続けているが、もはや日銀による買い支えがなければ、税収の約2倍もの予算すら組めない状況になっている。

   今年度の一般会計は160兆円と、すでにGDPの約3割に上っていた。もともと国債を頼りに予算を組んでいたところに、コロナ禍の打撃が加わり、政府は2度の補正予算で年間税収に近い計57・6兆円の追加財政支出を伴う対策を決めた。財源は国債の追加発行で賄うしかない。今年度の新規国債発行額は前年度の2・4倍、国債残高は今年度末で964兆円になる見込みだ。

   ふつうなら考えられない構図だが、空前の財政運営を支えるのはやはり日銀だ。日銀が大量に国債を買い進めるため、国債の金利は「ゼロ」近くに抑えられる。ふつうなら国債発行による金利上昇への懸念が借金のブレーキになるが、「異次元緩和」のもとではそのブレーキも、利きにくくなっている。

   日銀は4月には国債買い入れの上限を撤廃し、5月には麻生太郎財務相と日銀の黒田総裁がコロナ禍に「一体となって取り組む」という共同談話を発表して政府・日銀の協調姿勢を示した。中央銀行の「独立性」は、もはや名ばかりになったかのようだ。

「かつての金利水準なら、1千兆円の国債を発行すれば、50~60兆円もの支払い利息を覚悟しなければならなかったのに、ゼロ金利のもとでは、過去の債務にかかる利息を含めても10兆円に満たない。新規に発行する国債の利払いは限りなくゼロに近く、財務省は金融緩和のメリットを感じているだろう。しかもドル建てやユーロ建てで国債を発行しているならデフォルトの恐れも出てくるが、円建てなら円を刷り続ければ、発行済みの国債は返済できる。また、すでに発行済みの国債については、10年ごとに残高の6分の1を返済し、残りの6分の5を借り換える必要があるが、それも日銀が最終的に買い取ってくれるなら、クリアできる」

   では問題はないのだろうか。高橋さんはこう指摘する。

「財政規律が緩むだけではない。金利を低くすれば、市中の人は金を借りやすくなると思うのがふつうだろう。しかし、金利が低くなればなるほど、銀行はリスクを取れなくなる。実際、金利が5%なら、100社にそれぞれ100万円を融資して、そのうち5社が返済不能になっても、銀行は残りの会社からの利息収入で回収不能になった損失分をカバーできる。だが金利が1%に下がれば、2社が返済不能になると、もはや銀行は利息収入で損失をカバーできない。つまり、金利が下がると銀行のリスクを取る能力は低下する。この結果、金利を高くしても借り入れ需要があり、しかも、手っ取り早く回収できる株や土地など、投機的な方面に融資が向かいがちになる。これがバブルの始まりでもある」

   日銀は、民間の金融機関から国債を買って市中にマネーを供給し、企業活動に金が回るようにするといってきた。だが現実には企業活動に回らず、株や土地に向かって物価ではなく資産価格の高騰を引き起こしている、との指摘だ。

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