外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(19)アベノミクスの今と、資本主義の行方

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立命館大名誉教授・高橋伸彰さんに聞く「アベノミクス」の現在

   こうした状況をどうとらえたらよいのか。8月17日、立命館大名誉教授の高橋伸彰さん(67)に話をうかがった。

   北海道に生まれた高橋さんは、早稲田大政経学部を卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に勤め、1999年から昨年4月まで、立命館大国際関係学部で日本経済論を教え、一時は同大の国際地域研究所長も務めた。日本開発銀行時代には、通産省大臣官房企画室の主任研究官になり、米ブルッキングス研究所で在外研究もした。実務と研究の両方に通じたエコノミストである。

   今のコロナ禍による打撃について質問すると、高橋さんはまず、今回の下落要因の約4割が外需の減少によるものだという点に注意を喚起した。

「08年のリーマンショック後は、輸出依存度の高い日本経済の弱点があらわになり、改めて内需への転換が急務だと叫ばれた。しかし、民主党政権においても、また7年以上続いたアベノミクスによっても、その内需転換が図れなかった顛末が、今回のコロナ禍で露呈したといっていい。内需のかなりの部分は個人消費が占めるが、その個人消費が増えなかったのは賃金が増えなかったからだ」

   安倍晋三政権は2013年6月に発表した「日本再興戦略」で「アベノミクス」の全体像を示した。大胆な金融緩和政策、機動的な財政政策、成長戦略という「3本の矢」でデフレを脱却するという青写真だった。

   大規模な金融緩和によって企業業績を伸ばし、賃金を増やして消費を喚起し、それがさらに企業業績の拡大をもたらすという好循環を作り出し、デフレを克服するという見取り図である。

   だが、雇用者に支払われる賃金の総額は1997年をピークに安倍政権が誕生する直前まで減少を続けていた。アベノミクスによって、一時、実質賃金がプラスに転じたこともあったが、2018年12月には、厚労省の「毎月勤労統計」が04年から統計方法を変更していたことが総務省の指摘で発覚し、野党が国会で、「アベノミクス偽装」として追及する騒ぎになった。

   厚労省が今年2月7日に発表した2019年の毎月勤労統計(速報値)では、名目賃金にあたる労働者1人あたり平均の現金給与総額は前年より0・3%減の月額32万2689円で、6年ぶりの前年割れとなった。正社員より賃金が低いパートタイム労働者の比率が高まったのに加え、働き方改革などを受けて労働時間が減り、全体の賃金を押し下げた結果だ。7年余りかけても、当初アベノミクスが見込んだ「好循環」は実現していないことになる。高橋さんはこう指摘する。

「派遣やパートタイムなど全体の4割近くを占めていた非正規雇用の労働者がさらに増え、数だけでいえば雇用環境は改善したように見えるが、現実には正社員のベアもほとんど上がらず、その他の手当も増えなかったことから、消費増によるデフレ脱却もできていない。一言でいえば、アベノミクスによって、内需主導への構造転換ができなかったということだろう」
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