非常事態に備える名目でためた「内部留保」を今こそ危機対応に
インタビューの冒頭で、水野さんはこうした論点を指摘したうえで、まず、「コロナ対応では内部留保を活用すべきだ」という持論を語った。
「この間企業はずっと、いざという時に備えて従業員に、『もうちょっと我慢をしてほしい』と頼み、内部留保を貯め込んできた。緩やかに労働生産性も上がっていたのに、従業員が賃下げにも耐え、非正規雇用を増やしてきたのも、いつか来る『非常事態』に備えて、という名目があったからだ。今のようなコロナ禍で金を使わないというのなら、いったい、いつ使うのか」
もしこのコロナ禍で内部留保の資金を使わないなら、「非常事態に備えて」という建前がウソであったのか、あるいはマルクスが「資本論」で引用した「わが亡きあとに洪水よ来たれ」のように、従業員の命や健康にはまったく顧慮しない資本の論理を貫いているのか、どちらかではないか。水野さんはそういう。
マルクスは同じく「資本論」で、「将来の人類の衰弱や、結局はとどめようのない人口減少が見込まれるからという理由で資本が実際の運動を抑制するというのは、いつか地球が太陽のなかに落下する可能性があるという理由でそうするというのと、どっこいどっこいの話である」と書いた。
水野さんはこの文章の意味をこう解釈する。
「地球が太陽に吸い込まれでもしない限り、資本家は金儲けをやめない。社会にどれほどの危機が迫っても、資本は生き延びるという論理を指した言葉だろう」
水野さんは、政府によるコロナ対応が遅い今、これまで企業が積み上げてきた460兆円に及ぶ内部留保金を活用するべきだという。
「これは企業がまさかのときに備えて貯め込んでいたお金です。いまがその『まさかのとき』でしょう。いまこそ内部留保金を使うべきです」
日本の企業の内部留保は、460兆円に上るが、1999年以前のペースで貯め込んでいたとすれば、200兆円ほどだったろう、と水野さんは言う。
「差額の260兆円は、今回のような非常時に備えていたはずです。もともとこの内部留保には、本来なら従業員に払うべき賃金、金融機関に戻すべき利払い分の計130兆円分も含まれている。これら130兆円は本来『緊急事態対応預り金』として負債の部に計上すべき性格のものです。もし130兆円を取り崩して活用できれば、人口1億2千万人に100万円ずつ、1世帯に247万円を配ることもできる。世帯収入の中央値は437万円(厚生労働省「2019年の国民生活基礎調査の概要」)なので、半年ほどは国民の生活を支えられる。もし260兆円を取り崩し、生活の苦しい人約半数の国民に支給するとすれば、コロナ禍が続いても2年間は危機に耐えられる」
ここまで内部留保を貯め込んだ国は日本しかない。政府が「打ち出の小づち」のように国債発行に頼り、最終的にツケを国民に回すのを待つより、率先して危機に立ち向かうことで、企業の社会的評価はあがる、と水野さんは言う。