島しょ部は複雑...「来てほしいけど」「遠慮してほしい」
「東洋のガラパゴス」と呼ばれ、毎夏多くの観光客を魅了する小笠原諸島(東京都小笠原村)。都心から約1000キロも離れているが、「東京除外」で島への旅も割引の対象外となった。
本土から唯一の交通手段である父島行きの船「おがさわら丸」。運営する「小笠原海運」は、この夏も海水浴やシュノーケリングを楽しむ観光客を見込み、3日に1便を運行する予定だったが、新型コロナの「第2波」と「Go To」の東京除外を受け、週1便に減便した。船内の「ソーシャルディスタンス」を保つため、席数も制限している。小笠原海運の担当者は「トップシーズンなのに、収支的には厳しいです」と話す。
小笠原村観光協会の小林広治さんが島の状況を説明する。
「小笠原はリピーターが多く、宿泊施設には夏休みに多くの予約が入っていました。『コロナで海外旅行ができないから、海が美しい小笠原に行こう』という方もいたようです。が、『Go To』の東京除外が発表された頃からキャンセルが相次いだそうです。大変残念です」
観光が主要産業の小笠原諸島や伊豆諸島などの島しょ部はいずれも「東京都」のため、新型コロナウイルスの感染者は御蔵島で1人出ただけにもかかわらず、「Go To」の対象から除外された。
このため、島しょ部や東京の西多摩地域の町村を中心に構成する「東京都町村会」は、「Go To」の対象に都内発着の旅行も加えることを求める要望書を8月17日に西村康稔・経済再生相に手渡した。島しょ部などの観光産業は厳しい状況にあり、「観光産業従事者などの生活が新型コロナウイルス感染症発生前の水準に戻ることは不可能だ」と要望書では指摘している。
ただ悩ましいのは、小笠原村に診療所が1つしかないように、島しょ部の医療体制は脆弱だ。離島で新型コロナの感染者が出た場合の対応は難しく、伊豆諸島ではヘリコプター、小笠原諸島では自衛隊の航空機で患者を本土に搬送する必要がある。
しかも各島は高齢者が多く、感染によって重症化のリスクもある。旅館の中には、感染を恐れて東京など大都市部の宿泊予約を受け付けていないところもあるという。ある島の民宿の経営者は取材にこう明かした。
「小さな島ではみなお互いの顔が見える、近い間柄です。うちの宿で(コロナの)感染者が出れば、すぐ情報が広まり、暮らしづらくなるのは間違いない。『Go To』除外は私たちの生活にとって厳しいのは事実ですが、(観光客に)来てほしいようで遠慮してほしいような、ジレンマを抱えています」