「確実に一昔前よりGKコーチの数が増えています」
この特殊なシーズンを活用して、若手に実戦経験を積ませる狙いが各クラブにはあるようだ。とはいえ、一定の実力がなければ1試合だけで再び控えやベンチ外に回ってもおかしくない。その点、今季出場している若手GKの多くは既に複数試合に出場したり、好セーブを見せたり、無失点という結果を出したりしている。山野氏は「特に仙台の小畑には衝撃を受けました。18歳にして完成されています。通常、プロに入るとまずプレースピードの速さに戸惑う選手が多いですが、驚くほど冷静かつ的確に状況判断ができています」と舌を巻く。
実力の面で若手の台頭を支えているのは、「何といってもGKコーチの方々が尽力されているおかげです」と山野氏は断言する。日本サッカー協会(JFA)が創設した「GKコーチライセンス制度」や現場の努力が、成果となって今表れ始めているという。
話は22年前にさかのぼる。FIFAワールドカップ(W杯)初出場の1998年フランス大会、日本は3連敗で敗退。JFAは大会後の総括で「世界に追いつき追い越すために必要なことの中の1つとして、GKの養成が急務」(JFA公式サイトより)との分析から、世界を見据えた「ゴールキーパープロジェクト」を発足させた。その後2004年に新設したのがJFA公認GKコーチライセンス制度。創設後も改善を重ねながら、協会をあげてGKとその指導者を養成している。
海外でのコーチ歴も長い山野氏は、2019年から日本の高校の指導現場に身を置くようになって驚いたという。「確実に一昔前よりGKコーチの数が増えています。対外試合で相手チームにGKコーチがいるのをよく見ますし、GKコーチによっては複数チームを掛け持ちして指導に回る方もいます」というのだ。
「JFAのGKコーチライセンスは素晴らしいもので、GK界全体の指導力は確実に向上しています。指導者の数も増えています。それをベースに、プラスして現場のGKコーチ陣が独自に研究と試行錯誤を重ね、所属選手に即した練習方法を考えています。Jリーグクラブから部活まで、各GKコーチの方々が本当に尽力され、質の高い練習と指導をしてきた成果として、GKのレベルが底上げされていると思います」(山野氏)