新型コロナウイルスの院内感染などを防止しようと、東京都世田谷区が介護職員や保育士ら約2万人を対象に独自のPCR検査を行うことの是非について、ツイッター上などで議論になっている。
無症状感染者らが次々に分かれば、医療崩壊などが起きるのではと懸念があるからだ。区の担当課では、「そんなに大きな話にはならないと思う」と説明するが...。
保坂展人区長「症状がない人を深刻になる前にピックアップ」
「誰でも、いつでも、何度でも」。世田谷区の保坂展人区長は2020年7月下旬、こんなコンセプトでPCR検査を受けられる体制「世田谷モデル」を目指すと言明した。それは、検査を受けたくても受けられないという不満が一定程度あるためだ。
そして、その一環として、保坂区長は、8月24日になって、症状の有無に関わらず、介護職員らに2か月ぐらいをかけて順次PCR検査を行うことを会見で明らかにした。
発表や報道によると、希望する職員らには、検査会場などで前鼻腔拭いをして自己採取してもらい、1日1000人規模で委託した民間事業者が検査を行う。もし陽性者が出れば、各施設で従来通りの対応をしてもらうという。補正予算に約4億円を計上し、9月議会を通れば、同月中旬から実施したい考えだ。
体制が整う10月からは、コスト削減のため、4人ほどの検体を1つに混ぜて分析するプール方式で行い、陽性が出れば、再度個別検査を行うとしている。
保坂区長は会見で、「症状がない人を深刻になる前にピックアップして、クラスター化や地域への拡大を防ぐ」などとその意義を強調した。
この試みについては、ツイッター上などで、様々な意見が寄せられている。
世田谷区医師会サイトの「医師会の検査とは関係ない」が話題に
「新しい世田谷モデルに期待します」「どんどん広げて誰でも気軽に検査できるようになるといい」と歓迎する声も寄せられた。その一方で、陽性者が続出することによる医療崩壊への懸念のほか、「施設の閉鎖が必要になるし、嫌がらせや誹謗中傷を受ける」「1回だけじゃ効果は限定的」「体調不良の状況にあり不安を抱えている方々を優先すべき」などと疑問や批判の声も噴出した。
世田谷区医師会が8月24日、「報道されております『世田谷モデル』について」と題したお知らせをサイト上に出したのもツイッターで話題になった。そこでは、区のモデル事業は社会的検査であって、症状のある患者らを対象に医師会が行う医療的検査と「全く関係ありません」と断言していたことから、医師会が区の事業に反対しているのではないかといった憶測も流れた。
このことについて、区医師会の事務局長は8月25日、J-CASTニュースの取材に「そういうことでは一切ありません」と否定したうえで、次のように述べた。
「区の事業とごっちゃになっている区民の方もおられ、会員の先生にも問い合わせがありましたので、医師会ではやらないことを分かってもらいたくて出したものです。区は、保健所や医療機関が大変な状況にならないようにしたいと会合などで話していましたので、医療崩壊を防ぐ対策は、区が考えられていると思います。我々は、できることをやっていくだけですね」
事業を担当する区の保健医療福祉推進課では、医師会のお知らせについて取材にこう話した。
「陽性が続出するような大きな話にはつながらないと思う」
「無症状の方を対象に広くやっていく社会的検査は、医療的検査の仕組みはまったく別で、なるべく保健所や医師会に負担を与えないようにしています。医師会とは事前に話もしていますし、区の事業を否定しているものでないと考えています」
医療崩壊の懸念については、区では、次のように説明した。
「陽性が出た場合、保健所に引き継ぎ、入院か自宅静養する流れは変わりませんが、陽性が続出するような大きな話にはつながらないと考えています。しかし、やってみないと分からない部分もありますので、まず介護施設から検査を始め、様子を見て次の課題に対応したいと思います」
施設に陽性者が出た場合については、「休業などの対応をお願いすることにはなりますが、こちらも様子を見ながらやりたい」と話し、継続的な検査については、「1回り分だけ予算を確保しましたが、次は同じ事業者を対象とするか、障害者施設や学校にすそ野を広げるか、やってみて検討したいと思います」とした。なお、医療的検査については、倍増して1日600人規模に拡大することを8月24日に発表している。
区の事業を発表してから、保健医療福祉推進課などの電話は鳴りっぱなしだそうだ。「PCR検査は必要な人にやっていくべき」「税金の無駄遣いだ」といった反対の声の方が多いというが、「安心を与えてくれるので、どんどんやって下さい」と賛同の声も次々に寄せられているとしている。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)