外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(18)変わる「働き方」と「地方の時代」

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「リアルとオンラインの接続」が促す地方創生

「職場や組織に縛られない生き方は地方に住む誘因になる。これまでの地方居住は企業の誘致や新規立地で働く場所を確保することが前提だった。新しい働き方では、東京や大阪とつながりながら、仕事は今までと同じように続け、魅力のある自然や、育児・教育・医療など、自分に合った環境を選ぶ可能性が出てくる。通信販売やオンライン診療、イベントや美術館・博物館のオンライン展示が一般的になれば、『過疎地』に住む不便さも解消されるだろう。さらにオンラインによる講義や会議が普通になれば、地方にいても教育や研修を受ける機会が増える」

   実際、同大地域構想研究所が全国の1~10万人規模の自治体で行った調査によると、「人材の充足度」は多い順番から「現場の中核的人材」、「コミュニティのリーダー」、「合意形成を支援する人材」だったが、その充足度は2016年から20年にかけて大きく低下しているのに、各種の派遣研修は減少気味だった。そうしたギャップが生じる背景として、予算というより、研修時の他の職員の負担やスケジュール調整など、時間や距離における負担をあげた自治体が多かった。

「これは自治体だけでなく、地方企業にも共通した悩みだと思う。オンラインでは、時間や距離の負担がなくなるし、これまでの通信講座やテレビ講座と違って、リアルタイム、双方向でコミュニケーションを取ることができる。そういう利点を活かしていけば、地方の暮らしを便利にし、地方創成の芽にすることもできるのではないか」

   もちろん、課題も多い。

   オンライン普及にあたっては、情報リテラシーの格差を縮めることや、セキュリティをどう確保するかが重要だ。しかし、地方にはこれに加え、固有の課題がある、と村木さんは指摘する。それは、「リアルとオンラインの接点」を意識的に作り出すことだという。

「リアルとのかかわりがあるからこそ、オンラインが大きな意味を持つ。通信販売では物流、オンライン医療では検査や手術などへのアクセス、会議や研修では対面の機会を確保することが、ますます重要になる。学校でも、従来型の対面授業とオンラインをどう組み合わせるかが課題になるだろう」

   リアルの中には、オンラインに移行できない部分が残る。人の喜びや感情に作用するようなサービス業などの「感情労働」は、簡単にはオンラインで代行できない。5Gの普及や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)技術の進展で、三次元のリアルに限りなく近い体験を提供できても、よほどの技術の進歩がない限り、リアルの世界には届かない。

「ZOOMでの会話は、初対面の人が相手だと、ぎこちないものになりがちです。息遣いやその人の全人格が醸す雰囲気など、実際に会ってみないとつかめないものがある」

   オンラインをリアルの代替手段と位置付ければ、その選択は、1か0かのゼロサムになる。だが、補完関係と考えれば、「1・5」にすることができる。そう村木さんはいう。

「大学のオンライン講義では、アフリカの人を呼んで参加してもらうこともできるし、地方にいる人も分け隔てなく気軽に参加できる。その一方で、定期の会合は減らしても、年に一度実際に集まる機会を設けるなどの工夫が必要です。ホテルやコンベンションセンターの需要は減るでしょうが、代わって大画面を使った大規模オンライン会議を開く場になるかもしれない。要は需要が減ることを嘆くのではなく、どう需要を作り出すかを考えるべきだと思う」

   厚労省を退職後、村木さんは少女や若い女性を支援する「若草プロジェクト」の統括理事を務めるなど、女性や障害者ら、生きづらさを抱える人々を支え合う社会活動に専念してきた。そこにも、コロナ禍の波は変化をもたらしている。

「戦後の高齢者や障害者の施設は、できるだけ大きな公共施設をつくるという流れが続いた。それが20年ほど前から、地域に根差した小規模の施設や個人の居住に移り、地域で共生する方向に舵を切った。今回は、一部に残っていた大規模な居住施設でクラスターが発生し、基礎疾患を持つ人や体力のない人が犠牲になった。社会からの『隔離』が逆に集団感染を招くという逆説だ。福祉や介護の場では圧倒的な人手不足を補うため、ロボット技術やIT技術の導入が進んでいる。政府の投資による不況からの脱出は、こうした生活弱者への支援に重きを置くべきではないか、と思います」
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