いやおうなく「ジョブ型雇用」に向かう
テレワーク定着の兆しはすでに現れている。オフィス仲介大手の三鬼商事がこのほどまとめた7月の都心のオフィスの平均空室率は2・77%で、21か月ぶりに2%を超えた。前月からの上げ幅は0・8ポイントと、月ごとの発表を始めた2002年1月以降で最大になった。テレワークの拡大で大企業はオフィスを削減し、中小ではオフィス自体を閉じる動きも出ている。野村不動産は6月、今後求められるオフィスの姿を考える研究所を立ち上げた。
もしこうした変化が定着すれば、在宅やテレワークといった勤務形態だけでなく、日本人の仕事の進め方そのものが、大きく変わるきっかけになるだろう、と村木さんはいう。
第一は、個々人の仕事の内容と責任が明確になることだ。欧米ことにアメリカでは、「ジョブ型雇用」と呼ばれる雇用が一般的だ。これは、特定の仕事に、人が割り当てられ、その範囲内で業務をこなす。これに対して終身雇用が一般的だった日本では、「メンバーシップ型雇用」と呼ばれ、まず人ありきで、その人に仕事が与えられる方式が一般的だった。
「ジョブ型」は最初から業務内容、勤務地、給与、その他の条件が明確に示され、その能力や条件に合うと思う人々が希望して就職する。「メンバーシップ型」は、業務内容や勤務地、その他の条件をはっきりさせず、勤務の途中で条件が変わっていく。
日本では、ある特定の技能を持つ人が次々に転社して同じ業務をこなし、スキルアップしていくことは、まだ大勢とはいえない。かつて大きな企業で終身雇用や年功序列が一般的だったころには、ある会社に入ると、様々な職種をこなし、昇進していくスタイルがふつうだった。「ジョブ型」と「メンバーシップ型」は、こうしたキャリアの在り方と対応しているのだろうか。そう問いかけると、村木さんは、そうではない、という。
「重なっている部分もあるが、これはキャリアの在り方ではなく、仕事の進め方の違いに重きを置く言葉です。たとえば同じ会社の企画部に所属していても、日本では個々人の業務の分担は明確ではなく、『チームで協力をしてこなす』という考え方をすることが多い。ある業務に応じて人を入れ替えるよりも、その職場を挙げてチームワークで業務をこなす、という考え方をしがちです」
もちろん、コロナ禍が起きる前から、日本の働き方は「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へと移行する傾向が見られた。転職をしたり、キャリアアップしたりする人が増え、非正規雇用やギグ・ワークなど、雇用形態も多様化した。だが、コロナ禍によって、日本の働き方はいやおうなく「ジョブ型」に向かわざるをえなくなるだろう、と村木さんはいう。
「離れて在宅で働く方式が機能するためには、役割分担を明確にし、個々人がどんな仕事をしてどんな責任を負うのか、上司も同僚も理解していなくてはならない。これまでのように、そこを曖昧にしたままだと、混乱が起きてしまうからです」
そうなれば、労働に対する評価システムも、変わらざるをえない。
「評価の明確化だけでなく、情報共有の在り方もハッキリとせざるをえない。暗黙知から明示知への流れが加速するでしょう。つまり、これはたんに勤務の仕方が変わるということではなく、職場の在り方や、会社の在り方にも大きな変化をもたらす可能性が高いのです」
これまで日本の組織では、事務的・管理的な仕事は定量化できないという声が圧倒的だった。もちろん、その働き方には、一丸となって協働で仕事に取り組む利点がある一方、同質集団を形成し、外国人や女性、障害者といった働き手の多様性を排除するという限界もあった。今回の変化が、その行き詰まりを打開する突破口になれば、と村木さんはいう。