外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(18)変わる「働き方」と「地方の時代」

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   新型コロナの感染拡大によって、テレワークやオンライン講義が急速に定着しつつある。「ウイズ・コロナ」、「アフター・コロナ」の時代に「働き方」はどう変わり、「地方の時代」は来るのだろうか。

  •                           (コラージュ;山井教雄)
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「ウイズ」と「アフター」

   大正大学出版会が発行する雑誌「地域人」は6月末、通常の月刊に代えて「ポストコロナ時代の地方と都市」という特別号を出した。その緊急特集に論考を寄せた同大地域構想研究所教授の村木太郎さん(66)に2020年8月13日、ZOOMで話をうかがった。

   村木さんは京大大学院工学研究科を出て旧労働省に入り、東京労働局長、厚労省大臣官房総括審議官などを経て、この4月から地域構想研に招かれた。国際労働機関(ILO)の日本政府代表を務めたこともあり、長年にわたって労働現場を見守り、戦後の労働環境の変化を熟知する立場だ。

   雑誌に寄せた文章は、「『コロナ危機』で変わる働き方、暮らしと地方創成」というもので、副題に「ピンチをチャンスに」とあるように、この深刻な感染拡大の危機にあっても、少しでも前向きな兆しを読み取って、「アフター・コロナ」の新しい生き方を模索しようという提案だ。

   「ウイズ・コロナ」や「アフター・コロナ」という言葉が広く使われるようになったが、村木さんはまず、新型コロナについて三つのフェーズを、こう定義する。

「第一段階は、緊急事態宣言が出され、経済・社会活動が大幅に制限された時期。第二段階が、ワクチンや治療薬ができるまで、『新しい生活様式』を求められる時期。これが『ウイズ・コロナ』の時期です。そしてコロナ危機が収束したあとの時期。これを『アフター・コロナ』と定義しています」

   村木さんの予想では、有効なワクチンや治療薬が年末から来年早々に開発されるという前提に立っても「ウイズ・コロナ」期は来夏までは続く。欧米や日本が「アフター・コロナ」期に入っても、南米やアフリカなどで収束しない限り、再び感染拡大の恐れが続くとみるからだ。

   当然のことだが、「ウイズ・コロナ」期に起きる変化であっても、「コロナ以前」に戻るものもあれば、「アフター・コロナ」期まで持ち越され、社会に定着するものもある。後者の場合、変化は不可逆的で、後戻りしない。つまり、社会関係や生活様式が以前とは決定的に変わり、新しい社会が出現することになる。現在私たちが直面している「ウイズ・コロナ」の期間に、悲観ばかりして現状を嘆くのではなく、「アフター・コロナ」のあるべき姿を構想して、少しでもそちらに向かうべきだ、というのが村木さんの基本的な考えだ。

   緊急事態宣言下の2か月で社会・経済活動は停滞し、その後も私たちはまだ「コロナ以前」には戻れずにいる。当分は「三密」の回避や手洗い、咳エチケットの徹底といった衛生面だけでなく、テレワークや時差出勤を求められる時期が続く。

「社員が定時に出勤し、同じ職場で机を並べ、随時打ち合わせをしながら協同で仕事をするスタイルが減り、都合のいい時間に在宅で、それぞれが担当の業務をこなし、メールや定時のウェブ会議でコミュニケーションをするというスタイルが、急激に増えた」

   こうしたスタイルの変化は、感染拡大防止という観点から、半ば強制的にもたらされたものだ。しかし、そこにメリットがあると気づけば、そのスタイルは中長期的に定着していく、と村木さんはいう。

   メリットの第一は長時間通勤やラッシュを回避できることだ。自分のペースで仕事ができ、遠く離れていても、すぐに打ち合わせができる。もちろん、だれもが必要と感じていなかった形骸化した会議も減って、そのために膨大な時間を費やした資料づくりの作業も淘汰されていくだろう。

   もちろん、デメリットを感じる人もいるだろう。住環境が不十分なため、子どもや共稼ぎをするパートナーが自宅にいると、気が散って仕事に専念できないという人もいる。

「でも、子どもの声がうるさいから、仕事ができない、というのは、ある意味で男性の贅沢。じゃあ、女性はこれまでどうだったかを考えると、子育てしながら、保育園や幼稚園への送り迎えもこなし、長い通勤時間をかけて職場に通う人が多かった。オンラインは50センチ四方の空間があればできるし、子ども部屋の机を借りてでもできる。喫茶店で仕事をする人も増えている」
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