気象庁はウェブサイトに初めて民間広告を載せる枠を設け、2020年9月中旬から掲載を始める。実は、気象庁のサイトは年間で約79億回ものアクセスがあり、中央官庁ではダントツのアクセス数を誇る。そのため、アクセス数に応じて増える広告収益をサイトの運営経費に充てるという。
中央官庁では、外務省が一時期サイトに広告を掲載したことがあるというが、現在は他にない。気象庁が今回実施する背景には、国の厳しい財政事情があるという。
アクセス数は中央官庁でダントツ
「広告収入が得られることで、結果的に国民の税負担を減らすことができ、効率的な行政運営をしていくことができると考えています」(気象庁広報室の担当者)
気象庁の2020年度の予算は594億円。2010年度からは24億円、2000年度からは176億円減った。近年は地震や大雨など災害が多く、観測体制を強めないといけないため、様々な経費を削減しなければならない事情があるようだ。
そこで目を付けたのが多くの人が訪れるウェブサイトだ。20年4月までの1年間に、1ページ1回として79億回のアクセスがあったという。比較のため、J-CASTニュースは「SimilarWeb」というイギリスのIT企業が提供するツールを使って、主な中央官庁の「訪問数」を参考までに調べてみた。
気象庁サイトへの7月の訪問数は6099万回。やはり中央省庁ではダントツだ。厚生労働省が3674万回、国土交通省が2051万回で続くが、他省庁は一桁以上少ないのが実情だ。ちなみに、厚労省のサイトは新型コロナウイルスの感染拡大に伴い緊急事態宣言が出された20年4月に6820万回を記録していた。
あくまで比較のための参考として、同じ「SimilarWeb」でニュースサイトも調べたところ、7月の訪問数が「NHKオンライン」は1億1919万回、「日本経済新聞電子版」が9134万回、「朝日新聞デジタル」が8307万回、「読売新聞オンライン」が3786万回だった。
災害時の「不適切」広告に懸念も
気象庁のサイトにはどんな人が訪問するのか。気象庁広報室の担当者によると、サイトへの訪問者は災害の発生や季節によって上下があるが、幅広い人が訪れるという。
「天気予報を見たり、地震が起きた時に震度を確認したりと、若い人からお年をめした人まで、実にさまざまな方に見てもらっています。特に雨が降った時は、『アメダス』(地域気象観測システム)で雨雲の動きなどが見られるので、アクセスが増えます」(広報室の担当者)
天気予報を配信するインターネットサービスは他にもあるが、やはり気象衛星や全国各地に観測所を抱える気象庁の信頼性もあって、正確な情報を求める訪問者が多いようだ。広告主側から見たその魅力について、自治体の財源確保などの支援を手がけ、自治体のウェブサイトへの広告掲載にも関わるIT企業「ホープ」(福岡市)の広報担当者はこう話す。
「気象庁が持つサイトへの信頼性は、広告主にとっても非常に魅力的です。また訪問数の大きさも圧倒的ですから、広告媒体としては非常に大きな価値があると思います」
気になるのは、地震や大雨など公益性が高いサイトにも関わらず、不適切な広告を訪問者に見せてしまわないかという点だ。気象庁が運用するのは、「運用型広告」と呼ばれる、サイト訪問者によって異なる広告が出る仕組みだ。性的な内容を含むものや政治広告などは当然NGとして、災害時だと『不謹慎』とされる基準も高くなる。
「私たちもそれを一番懸念しています。あらかじめ不適切なものが掲載されないよう、フィルタリング(機械的に特定のジャンルの広告を除去する仕組み)する予定です。9月の掲載開始に向けて今、慎重に準備を進めていますし、細心の注意を払うつもりです」