有権者へのマスク配布は「寄付」? 過去にも香典、カニ、メロン...セーフとアウトの線引きは

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   新型コロナウイルスの感染が拡大していた最中に、自民党の秋本真利衆院議員(千葉9区)の秘書が、使い捨てマスクを選挙区内の有権者に配っていた問題が報じられた。公職選挙法で禁止されている「寄付」に当たる可能性があるが、秋本氏の事務所は違法性を否定。過去にも政治家や秘書が有権者に香典やカニ、メロンなどを配っていた問題は何度も発覚しているが、結果的に刑事罰を免れたケースがほとんどだ。いったい何が「セーフ」で、何が「アウト」なのか。

   秋本氏の問題は毎日新聞が2020年8月20日付朝刊で報じた。記事によると、秋本氏の地元の衆院千葉9区(千葉市若葉区や佐倉市など)で20年4~5月、秋本氏の秘書が有権者宅を訪問して「こういうご時世ですのでマスクを持参しました」と不織布のマスクを渡したり、秋本氏側から医療機関にマスクを郵送したりしていたという。新型コロナウイルス拡大に伴い、緊急事態宣言が出ている最中だった。

  • 事務所側は「適正な政党活動」と主張しているが…(写真はイメージ)
    事務所側は「適正な政党活動」と主張しているが…(写真はイメージ)
  • 金銭や物品を配布する時のセーフ・アウトの線引きは?
    金銭や物品を配布する時のセーフ・アウトの線引きは?
  • 事務所側は「適正な政党活動」と主張しているが…(写真はイメージ)
  • 金銭や物品を配布する時のセーフ・アウトの線引きは?

「公衆衛生の見地から配布」「公選法に従い適正」とコメント

   秋本氏の事務所はJ-CASTニュースの20日の取材に対し、文書で次のように回答した。

「感染拡大阻止という公衆衛生の見地から、自民党千葉県第9選挙区支部に党費を頂いている方に配布したものであり、寄付には該当せず、公選法に従った適正な政党活動であると考えています(一部省略)」

   公職選挙法では、金やモノで票を買うこと、つまり買収行為を防ぐため、現職議員やこれから選挙に出ようとする政治家が、選挙区内の有権者に金銭や物品を寄付することを禁止している。

秋本真利衆院議員(秋本氏のウェブサイトから)
秋本真利衆院議員(秋本氏のウェブサイトから)

   それでも、こうした問題は毎年のように明るみに出ている。2019年には菅原一秀・元経済産業相が選挙区内の有権者に香典を渡したり、カニ、メロンやミカンなどを贈答したりしていた疑惑が発覚。国会で追及され、大臣辞職に追い込まれた。高木毅・元復興相も15年に香典や枕花を贈っていたことが発覚。松島みどり・元法相も14年、自身のイラストや名前入りのうちわを配っていた問題で法相を辞任している。

   与野党関わらず、このような事例は枚挙に暇がない。ただ、実際に刑事罪に問われた例は少ない。大半のケースで、議員は「政党支部としての活動」と主張し、実際に刑事罰は免れている。どういうことなのか。

公職選挙法に「抜け穴」 刑事罰に問われたケースを見てみると...

   象徴的な事例が、茂木敏充外相のケースだ。2018年に選挙区内の有権者に秘書が線香を配っていたことが発覚したが、線香に自身の名前を記しておらず、代金も自身が代表を務める政党支部「自由民主党栃木県第5選挙区支部」が賄ったとして、「違法性はない」と主張。実際に刑事罰を受けるなどの事態には発展しなかった。

   公職選挙法を所管する総務省によると、「政治家本人の氏名を表示し、または政治家の名前を類推されるような方法で寄付をしてはならない」としている。つまり、簡単に言えば、線香なりマスクなり、政治家の名前が入っていれば「アウト」、政治家名は記されずに「~党~選挙区支部」と書かれたのであれば「セーフ」というわけだ。松島氏のケースは、うちわに名前が記されていたが、松島氏は「議員の活動報告を印刷した配布物だ」と主張し、物品としての金銭的価値があるかどうかについて国会で議論が続く中、松島氏の法相辞職で曖昧なままになった。

   実際、小野寺五典・元防衛相は1999年、自身や秘書が線香セットを選挙区内で配布し、公職選挙法違反の疑いで書類送検され、議員辞職した。その後、罰金と3年間の公民権停止の略式命令を受けた。この時は線香セットに、「小野寺五典」という名前がしっかり入っていたため、刑事罰に問われることになったのだ。

   マスク配布が発覚した秋本議員側からの文書での回答にも、「配布の際、議員の氏名を表示し、または類推される方法で配布したことはない」と強調してある。文書の差出人名も「秋本」氏の名前は記さず、「自民党千葉県第9選挙区支部」名で送付されてきた。

金銭や物品を配布する時のセーフ・アウトの線引きは?
金銭や物品を配布する時のセーフ・アウトの線引きは?

   政党支部は一般的に、政党が選挙区ごとに設け、その選挙区から立候補する政治家が支部長を務める。安倍晋三首相の場合、自身の選挙区・衆院山口第4区にある「自由民主党山口県第4選挙区支部」の支部長だし、立憲民主党の枝野幸男代表も同様に「立憲民主党埼玉県第5区総支部」の支部長となっている。政党支部は、名称に「安倍」や「枝野」と入っていなくても、それぞれが党本部から分配された資金を自由に使える事実上の「財布」であることは自明だ。

   何より、有権者が香典やマスクを受け取った時、秘書から手渡されたとはいえ、実際は政党ではなく政治家本人を思い浮かべるのが自然だろう。

   ちなみに、香典については、政治家本人が葬儀に出席して手渡す場合に限り、「手ぶらで行くのは失礼」との考えから公選法違反には問われない場合もある。

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