緊急事態宣言の目安ともなる新型コロナウイルスの重症者数について、東京都がカウントの仕方を公表もなく変更していたことが分かり、医師らがツイッター上で苦言を呈している。
集中治療室(ICU)入りした患者数を外したといい、都の担当課に定義を変えた事情などを取材した。
医療体制はひっ迫していない、との説明に使われる危惧も
都の重症者定義変更が話題になったのは、2020年8月17日ごろだ。
以前はICUの患者数も含めていたが、いつの間にか、人工心肺装置のECMO(エクモ)や人工呼吸器が必要な状態の患者だけを重症者にカウントしていた。このことに対し、内科医らがツイッター上でこんな変更を公表もせずにしていいのかと苦言を呈し、一部メディアも報じた。
こうしたデータが、重症者が少ないので、医療体制はひっ迫していないとの説明に使われることに危惧する声も専門家らから出た。大阪府などでは、ICUの患者数も含めて重症者を発表していることから、内科医らは、専門家も混乱するので、全国で定義を統一してほしいと訴えている。
一般の人たちからも、医療機関の状況が分からなくて困るとする声が相次いでいる。
「定義変更で、初期より重症化率低下したと誤認される一因になりますよね」
「集中治療室に入っているのに、重症者じゃないなんて」
「各都道府県でバラバラですってことなら まともな解析なんて出来るはずが無い」
重症者の定義について、都の防疫・情報管理課は20日、4月27日から変更したと担当者がJ-CASTニュースの取材に答えた。
「ICUの患者だからといって、重症者か必ずしも分からない」
前日の4月26日には、厚労省が、ECMOや人工呼吸器に加え、ICUの患者数も含めて重症者をカウントするように各都道府県に事務連絡をしている。それにもかかわらず、ICUの患者数を含めないようにした理由について、都の担当者はこう説明した。
「それまでは、保健所に聞いたり、患者の発生届を見たりしていましたが、情報が取りづらくありました。事務連絡を受けて、病院にも聞くようにしたところ、ICUの患者だからといって、重症者かどうか必ずしもはっきりしないことが分かりました。カウントするのは適切ではないと判断し、ICUの患者数を外すことにしました。現場や医師の意見も伺っており、明らかに分かる指標にしたということです」
病院に聞くようにした結果、4月27日の重症者数は、これまでの定義では60人だったのが、90人になったという。
ICUの患者数も含めると、重症者のカウントが10人前後増えるとした。それでも、2倍ぐらい多い大阪府の重症者数に及ばないが、大阪では、高齢者を中心にした院内感染のクラスターが出ていることなどが理由ではないかとしている。
定義変更を公表しなかったことについては、「事務連絡を受けて、より適切なやり方にしただけだと考えました。ただ、今思えば、公表すればよかったというのはあります」と話した。
都のモニタリング指標としては、ICUの患者数を含めない定義で重症者数をカウントしていくとしたが、厚労省の調査に対しては、その数も含めて回答していくとしている。
大阪とはカウントのやり方が違うが、厚労省「そこまで定めていない」
重症者の定義について、厚労省の結核感染症課は8月19日、取材にこう話した。
「医学的な定義はまだありませんが、統計的に集める数字として事務連絡しています。都が報告してきた数字については、確認しているところですが、これに従っていないなら、ICUの数字も入れてほしいと思っています。統一の基準で確認しないと意味がないからです。独自の定義で発表しても構いませんが、国には事務連絡した数字を報告していただきたいです」
一方、大阪府の感染症対策課に取材すると、東京都とは違い、保健所に聞いたり、患者の発生届を見たりして重症者数をカウントしており、公表の数字には、病院に聞いたものは基本的に含まれていないと説明した。また、大阪府は、気管の挿管をした患者数も重症者に入れてカウントしている。
東京都と大阪府で重症者数をカウントするやり方が違うことについて、厚労省の結核感染症課では、こう言う。
「一般的に考えれば、病院に聞かなければ、重症者数は分からないと思いますが、ECMO、人工呼吸器、ICUの3つの数字を出していただければいいので、カウントの具体的なやり方までは定めていません。気管の挿管については、呼吸を補助するためにしますので、人工呼吸器を着けていない患者はほぼあり得ません。ですから、その数を入れることは気にしていないです」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)